1月にはツイッターで、企業価値950億ドルの大人気決済ソフトウェアのストライプとスタートアップアクセラレータのYコンビネータは「マフィアのボス」であり、フィンテック業界の競合他社をつぶすべく共謀しているとツイートを連投。2月にも、大手EC企業ショピファイにかみついた。
「大物にちょっかいを出しても怖くはない。シリコンバレーの闇について僕が声を大にして話さなかったら、誰も話さないじゃないか」(ブレスロー)ボルトがやっていることはシンプルだ。何百万ものオンライン店舗と何億人もの買い物客に、シームレスなワンクリック決済を提供するのだ。アマゾンやショピファイで提供されてきた機能を、地域の食料品店や中規模小売店、自動車修理店のチェーンでも提供できないかというのだ。
「ボルトが対象にしている市場には非常に大きなチャンスがあります。5〜10年後には小売市場の20%で利用されるようになっているかもしれません」
ベンチャーキャピタルのCEイノベーション・キャピタルの創業者で、ボルトのシリーズEラウンドで投資したデニス・コンはそう話す。21年、アマゾンは約6000億ドル相当の商品を販売した。100万以上の店舗が営業するショピファイのネットワークは1750億ドルを動かした。
ボルトが狙っているのはそれ以外の世界の店舗であり、統計調査会社スタティスタによると、それらは21年に4兆9000億ドル分の商品をオンラインで販売しているという。そこにボルトのワンクリック決済が導入されれば、購入者にとっては支払い情報の入力などの煩わしさがなくなるし、店舗にとっては売り上げ増加が見込める。現在、オンラインショッピングでカートに入れられた商品の最大70%がカート内に取り残されている。
ボルトのミドルウェア(OSと個別のアプリケーションの中間に位置するソフトウェア)は、どのような決済処理サービス、プログラミング言語、購買方法にも対応するという。クレジットカードやデビットカードにも、アップルペイやグーグルペイにも、ペイパルや後払い決済にも、近々、暗号通貨にも。また、どこのクレジットカード会社や銀行、通信会社、ソーシャルメディア大手、ECブランドとも提携関係にないため、どこでも使えるという。
投資家は、ボルトの収益とユーザー数が22年下半期に急増すると見込んでいる。それこそが、ボルトがデカコーン(評価額100億ドル以上のスタートアップ)になっている理由なのだ。
ボルトのシリーズDで投資したある人物は語る。「ボルトの契約先は1億ドル相当の年間総取引をもたらす可能性がある。それが投資する理由です」
生まれながらの起業家
ブレスローは、ノースマイアミビーチの小規模経営者が多い家庭で育った。祖父等はジーンズショップや会計事務所、海産市場を経営。ブレスローは少年時代、両親が経営するゴルフ練習場でゴルフクラブの手入れやレジ業務、ボール拾いに明け暮れた。「13歳にして店を取り仕切っていた。父から1ドルの大切さを教えられたよ」(ブレスロー)