それがいまや、見えないヒエラルキーに支配され、新規参入者や挑戦者の成長を阻んでいるのだろうか。歯に衣着せぬ物言いで知られるフィンテック企業「Bolt(ボルト)」の創業者ライアン・ブレスローが、シリコンバレーの他社を挑発する理由とは。
27歳のライアン・ブレスローは、世界最年少のビリオネアのひとりだ。マイアミ市内の3ベッドルームのつつましい平屋で、ほぼ毎日を過ごす。
裏庭の芝の上で踊ったり、瞑想したり。そして、サンルームのランニングマシン付きデスクからボルトを経営している。同社は企業価値110億ドル、従業員700人のフィンテックスタートアップで、何百万ものオンラインショップにアマゾン式のワンクリック決済を提供しようとしている。
「修行僧のような暮らしだよ。気が散る要素を取り除くと驚くほど仕事がはかどるんだ」(ブレスロー)
ボルトの持ち株のおかげで20億ドルの資産を保有するブレスローは、ズーム会議とオンラインのヨガセッションの合間に地元産の食材を使ったビーガン(完全菜食主義)の昼食をひとり、静寂のなかで食べる。肉やグルテン、カフェイン、アルコールを控え、サプリメントすら摂取しない。厳格な生活習慣は、彼が「ライオンのように働く」と称する短時間で爆発的な超集中力を発揮する働き方の一環だ。ライオンの狩りの手法に似ているのだという。
「金持ちになる人の多くはエリートの輪に入りたがる。僕は興味ないし、参加したくもないけどね」ブレスローはそう言ってにやりと笑う。
とはいえ、最近のブレスローはテック業界のあらゆる場に出没しているように見える。これまでにベンチャー投資家たちから合計10億ドルを調達しているが、そのうち8億7300万ドルはジェネラル・アトランティックやブラックロック、ウェストキャップなどの一流投資会社からだ。
ただ、この数字には多くの人間が首をかしげている。同社の2021年の売り上げはわずか4000万ドルだったからだ。それでも、ボルトのソフトウェアを利用する買い物客は急激に増えており、20年初めの80万人から1200万人超まで増加。アドビやフォエバー21、ファナティクスとの契約も締結し、近く大手ソーシャルネットワークや米国最大の百貨店との契約を発表するとの話もあるのだが。
ブレスローは業界全体に混乱と論争を巻き起こしている。今年1月、ボルトの最高経営責任者(CEO)を退いて会長に就任。また、ボルトの従業員向けストックオプション融資計画を「革命的だ」と喧伝している。ウェブ1.0を経験しているベテランたちからすれば無謀でしかない。