谷本:ビジネス界で何かを成し得て財を築いた人物だけが慈善活動をするのではなく、誰もが関心を持っている状態が望まれますね。ただ、今はそういった時代に変わりつつあると言えそうです。
柏倉:そうですね。スタートアップを起こした20代や30代、あるいは学生と話していると、社会課題の解決に挑戦したいという声が多いと感じます。
谷本:ビル・ゲイツ氏は来日の際、韓国にも立ち寄られています。日韓での違いはありますか。
柏倉:来日は訪韓後で、実はコロナ禍で日本もかなりの研究開発資金を投資しているものの、製品化されてグローバルで活用されているのは韓国の方が多かったりします。
その理由はマインドセットの差です。韓国ではスタートアップをはじめ、企業は開発段階からグローバルを見据えている一方、日本は国内で完結してしまっています。日本は海外展開が難しい体制を構築しているとも言え、今後は構想段階から社会課題解決とグローバルな体制の両立を念頭に置くことで、状況も変わるのではないかと期待しています。
谷本:見据えている市場の違いは、スタートアップに限らず感じさせられます。他にも、日本企業に足りない点はありますか。
柏倉:今後、社会課題の解決に向けたイノベーションやソリューションを生み出すのは、スタートアップではないかと感じています。そのうえで、今後は大学や研究所が社会課題への接点をいかに増やしていけるかが求められるはずです。
また、技術の商業化において、アメリカなどの海外では、大学内に研究者や技術者にマネジメントスキルや経営スキルをインプットするプログラムが用意されています。日本でも環境が整っていき、社会課題の解決によって自製品の価値を高めていくマインドが備わることが期待されます。
谷本:海外から見て、イノベーションを起こすポイントがあれば教えてください。
柏倉:日本社会の大きなハードルになっていると感じるのは、寄付の文化に馴染みがないところでしょうか。私自身はアメリカで育ったこともあり、小学校から「どういう組織に寄付をしたいのか」と聞かれるなど、寄付という考えが生活の中に自然に組み込まれていました。
自由な資金が増えれば増えるほど、自由な発想でイノベーションも生み出されると考えれば、いかに寄付を身近に感じさせるかが、日本社会とスタートアップにおける今後の課題と言えそうです。