エヌビディアは、これまでイーサリアムなど仮想通貨の採掘者にグラフィックチップを販売して大きな収益を得てきた。しかし、この分野の売上が激減する中、エヌビディアは同社のコンピューティングシステムを基盤に、没入型の製造設計が可能な産業用メタバースを構築することに新たなビジネスチャンスを見出している。
エヌビディアのCEO、ジェンスン・ファンは、これを「インターネットの3D拡張」と表現しているが、Web3技術の支持者たちが唱えているブロックチェーンを基盤にした非中央集権的なメタバースとは異なるものかもしれない。
「メタバースと言うと、多くの人がVRヘッドセットの装着を想像するだろうが、2Dで楽しむことも可能だ。私が好きなメタバースの楽しみ方の1つは、メタバースの中で作業をしている多くのロボットが、物理世界にいるロボットとコミュニケーションを取るというものだ。物理世界とメタバースは様々な方法で繋がることができる。それは人間同士である必要はなく、機械と機械でも可能なのだ」とファンはテック系メディアVentureBeatのインタビューで述べている。
エヌビディアが目指す産業用メタバースは、メタ(旧フェイスブック)の目指す方向性とは対照的だ。メタは、メタバースの構築から1年が経ったが、当初のエンタメ寄りのアプローチで成果を挙げることができず、マイクロソフトやアクセンチュアと提携してビジネス向け機能を強化している。
メタは、人間のアバターが交流し、仕事をする華やかな3D空間にユーザーを惹きつけることに苦労している。最近のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、メタの「ホライズン・ワールド(Horizon Worlds)」のユーザーの大半は最初の1カ月で利用を止め、ユーザー数は着実に減少しているという。また、コインデスクによると、メタバース空間で不動産が買える「ディセントラランド(Decentraland)」のDAU(1日当たりのアクティブユーザー数)は僅か38人だという。同社は先週、実際のDAUは8000人だと反論した。
オムニバースというプラットフォーム
エヌビディアは、AI搭載ロボットや自動運転車の開発、テスト、管理をするためのシミュレーション・プラットフォーム(Isaac SimとDRIVE Sim)を展開している。これらのプラットフォームは、「オムニバース・クラウド(Omniverse Cloud)」と呼ばれるメタバースアプリケーション向けに構築された同社のクラウドサービス群の一部で、同社にとって初めてのSaaS/IaaS製品だ。
同社は、先月開催した年次イベント「GPU Technology Conference(通称GTC)」でこれらの製品を発表し、既に欧州最大の工業メーカーであるシーメンスやクロアチアの高級自動車メーカー「Rimac」が利用している。