企業のダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進担当からよく聞く言葉だ。
例えば「生理休暇」は、作るだけではなかなか浸透しない制度の一つと言える。制度の存在は知っていて、本当は生理休暇を使いたくても言い出せない女性は一定数存在する。その背景には、そもそも男性の上司に生理休暇を申告しにくいと感じる女性が多いことに加えて、周囲の理解不足がある。
生理の程度は人それぞれであり、女性同士であっても他人の生理の辛さを完全に理解できるわけではない。ましてや男性が、女性従業員と生理に関するコミュニケーションを取れるほどの信頼関係を築くのは簡単ではないだろう。
では、「形だけの制度」ではなく「実際に使われる制度」にするにはどうしたらいいか。ヒントとなるものを書き出してみたい。
まず、名称は適切か?
ひとつは、制度の名称や対象者を見直すということ。例えば生理休暇の場合、一部の企業は、その名称を変更することにより「使いやすさ」を格段に上げることに成功している。
具体的には「生理休暇」を「メディカル休暇」に変更し、生理を抱える女性だけではなく、病気のため治療や通院が必要な人たちも使える制度にした。これにより、女性が休暇の申告をしやすくなっただけではなく、他の要因で有給休暇を消化せざるを得なかった人たちも制度の恩恵を受けられるようになった。まさに一石二鳥の改善例と言えよう。
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仕組みを動かす仕組みづくり
もうひとつ、実効性のあるD&Iの制度を作るためは、「仕組み」が重要だ。そのために、D&I担当者がまずすべきは、従業員が自由にアイデアを提案できる場所をつくること。オンラインでアイデアを投稿できる「目安箱」のようなシステムがあると望ましい。その仕組みさえあれば、従業員のアイデアを基に制度の改善を進めることができる。
しかし、目安箱を作ったところで「声が集まらない」と嘆く企業も多い。その原因は、従業員の自由な発言を許す「風土」と「マインド」の不足にある。つまり、従業員の声が集まらない状況を改善するためには、まずはD&Iに関する声を気軽に投稿できる「風土」「マインド」の醸成から取り組む必要があるのだ。
参考までに、過去に私が取り組んだD&I施策を紹介したい。ある企業では、目安箱へアイデアを投稿した人に「ポイント」を付与する制度を導入した。さらに高ポイント獲得者は朝礼で称賛し、集めたポイントを福利厚生制度に活用できる制度を設けた。
その結果、目安箱への投稿数は目に見えて増加する結果となった。賞賛の機会を与えたことや、ポイントの交換といったわかりやすいメリットを結びつけたことが効果的であったように思う。