ビジネス

2022.10.19

サンゴを生物多様性への影響評価のモノサシに

CEOの高倉葉太(写真左)と COOの竹内四季(同右)


次に来るメガトレンドに先手を打つ


実はルールメイキングに最初に着目したのは、創業1年弱のタイミングで参画した竹内だった。創業者である高倉の構想は、研究機関やオフィス、家庭に海を再現した水槽を普及させて、それぞれからデータを収集できる分散型の疑似海洋プラットフォームを形成すること。しかし当時は観賞用や教育用として一部の企業に導入されるにとどまり、高倉の描くビジョンとは開きがあった。

多くの企業に導入してもらう秘策はないか。突破口を探していた竹内は、オランダの老舗化学メーカー、DSMの事例からヒントを得る。

「DSMはカーボンプライシングの社内ルールを策定して、それを市場のルールにしようとロビー活動をしました。その結果、15年以降の数年で時価総額が4倍近くに膨らみました。成熟産業でも、気候変動問題のメガトレンドに先手を打ってルールメイキング側に回れば成長できた。生物多様性というテーマでも同じことをやった企業が成長する可能性がある」

さっそくさまざまな企業にアプローチしたが、最初は反応が鈍かった。自社製品の毒性にわざわざ光を当てるのは、藪をつついて蛇を出すようなものという考えが支配的だったからだ。

しかし、ここにきて風向きが変わりつつある。TNFDが今年3月に情報開示フレームワークのベータ版を公表。企業の間でも、気候変動問題の次の大きなテーマとして自然関連リスクが少しずつ注目されるようになってきた。

「化粧品や化学などいくつかの業界のリーディングカンパニーが、サンゴを使った試験に関心を示してくれています。まだ協議段階ですが、なんとか今年中には発表できれば……」

具体的な時期に言及したのには理由がある。TNFDは最初から世界共通のルールをトップダウンで広げるのではなく、各地でパイロットプロジェクトを募集して、その事例を集約させるボトムアップ型のアプローチを採用している。

「すでにヨーロッパでは賛同企業が多く集まっています。一方、アジアは賛同企業が少ない。日本は脱炭素のルールづくりに乗り遅れました。このままでは自然関連リスクの文脈でも出遅れてしまう。ルールメイキングという意味では1〜2年が勝負。少しでも早く事例をつくらないといけない」

その重要性は高倉も感じている。ただし、「規制対応というネガティブな話で終わらせるつもりはない」とキッパリ。最後に思いを語ってくれた。

「ルールをうまく使えば新たな産業を生み出せる。この夏にはコンサルティングファームと提携して、“ブルーエコノミー”についての発信を強めます。日本は海洋大国。多くのプレイヤーを巻き込み、日本発のブルーエコノミーを実現していきたいですね」


イノカ◎2019年創業。日本有数のサンゴ飼育技術をもつアクアリストと、IoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する環境移送技術の研究開発を行う。22年2月には、完全人工環境下でのサンゴの産卵に世界で初めて成功した。

文=村上 敬 写真=平岩 享

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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