30U30

2022.10.17

やらない理由を探すのではなく「見る前に跳べ」|暦本純一

30U30のアドバイザリーボートを務めた暦本純一


私の好きな言葉は「見る前に跳べ」です。「跳ぶ前に見よ(Look before you leap.)」という英語のことわざがあるのですが、それをひっくり返したオリジナルの言葉です。

元の言葉には、「何かを始めるときはその先のことをよく考えなさい」という意味がありますが、先を見ていると跳べなくなるから、まずは跳んで、跳びながら考えるのが今の時代に合っていると思います。今なら着地するまでの間に、インターネットなどでいろいろ調べることができるので、意外にころばなかったりします。

「発明は必要の母」という言葉も好きです。「車輪の再発明」のように、すでに世の中にそれがあると知らずに発明することを意味することわざもありますが、再発明を気にしすぎるあまり先に行けない場合もたくさんあります。そんなことをして意味があるのかと思うかもしれませんが、それらを全部避けて純粋に新しいものだけをつくることはできません。

フアさんも、すでに世の中にある音声合成技術を組み合わせるのではなく、とりあえず全部自分でつくってみたそうです。その際に積み上げられたノウハウには凄まじいものがあるので、要領よくやろうとするのではなく、車輪の再発明を恐れずに真っ向から取り組んでいく方が良いと思います。

周囲の理解が得られなくても、やってしまえばいい


──研究開発のアイデアの源は。

いま当たり前にやっていることが、実は特殊で古いことだと気づくことです。昔、マルチタッチシステムを発明したときも、現実世界では複数の指を使うのは当たり前なのに、コンピュータのインタフェースは一点しか操作しないのは不自然だと思いました。それを普通にできるようにするにはどうしたらいいかと考えたところから始まりました。

現在取り組んでいるサイレントスピーチインタラクションは、有声ではない発話をAIが認識する技術なのですが、これは、たとえば電車の中でスマホに音声認識を使って呼び掛けると周囲に聞こえてしまうな、と思ったところから始まっています。

目先の変わった技術を考えるというよりも、それが作られることによって、「今まではなぜこんな不自由なことを無理してやっていたのだろう」と思うようなことに着眼したいです。



──現在の目標は。

今取り組んでいるAIと人間を融合させる研究には、大きな可能性があると思っています。我々人間の持っている能力とAIの能力をつなげることによって、たとえばハンディキャップを克服するなど、できなかったことができるようになります。
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文=三ツ井香菜 取材・編集=田中友梨 撮影=小田光二

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