──今後の目標や夢はありますか。
以前に、金沢21世紀美術館で若手クリエイターたちと企画展「甲冑の解剖術 ―意匠とエンジニアリングの美学」を開催しました。これは、県の博物館に展示してある安土桃山時代から江戸時代初期にかけての甲冑が、素晴らしいデザインや美学を持つにもかかわらず、なかなか若い人に見てもらえないという課題意識から始まった展示でした。
そこで、甲冑を360度から鑑賞できる展示ケースを用意して、兜や組紐などのディテールを存分に楽しめる展示方法にし、ライゾマティクスによるデジタル解剖の映像をあわせて展示したところ、修学旅行生をはじめ若い方がたくさん観に来てくださるようになったんです。そうすると、自然と年配の方と若者との、世代を超えた出会いや交流も増えます。
この経験を踏まえて、今後もさまざまなコラボレーションを検討しつつ、この場所からできることを考えていきたいと思っています。
加えて、来年の3月で藝大が終わるので、来年にはプライベートで「感性を鍛える塾」を開講したいと考えています。アーティストや建築家を呼んで、U30の方を対象に、ものの成り立ちを体系的にお話しいただく場をつくります。
感性は、触れる作品の量に比例して磨かれるわけではありません。いい作品を見て感じたことをきっかけに、深く内省するプロセスが重要です。そこでは、そのための訓練の機会を提供できたらなと考えています。
また、関わる人の想像力が高まるような、人の潜在的な力を引き出せるような場も作っていきたいです。美術館、ビエンナーレのような展覧会、アートプロジェクトでのアドバイザリー、私塾など、場の種類は多岐に渡ると思います。さまざまな機会を通じて、若い世代を育てていけたらと考えています。
「いい」と思うものに多く触れる
──最後に、キュレーターやアーティストを目指す若者たちへ、メッセージをお願いします。
作品を見ることは何かを考えるきっかけになりますが、考えをすぐ言葉に置き換えてしまうとつまらなくなってしまうこともよくあります。アーティストとして新しいアートを生みだしたり、キュレーターとしてアーティストと一緒に仕事をするためには、より深く感覚の中に沈み込むプロセスが必要なように思います。
私も現代アートだけでなく、歴史的なアートや音楽など、「いい」と思うものにできるだけ多く触れることで、深く感じられるようにしています。みなさんも、作品に触れるときはただ見るだけではなく、是非リフレクションして、対象について考えたり語ったりしてみてください。