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2022.10.12

小さく閉じがちな世界で、いかに共感の場を形成するか|金沢21世紀美術館 長谷川祐子

金沢21世紀美術館 館長の長谷川祐子

誰もが気軽に立ち寄ることのできる現代アート美術館として、2004年に開館した金沢21世紀美術館。2021年4月より館長を務める長谷川祐子は、同館の立ち上げにも携わり、学芸課長、アーティスティック・ディレクターとして独自性の高い展覧会や空間づくりを手掛けてきた。

Forbes JAPANが“30歳未満の30人”を選出するアワード「30 UNDER 30 JAPAN」のアドバイザリーボードも務めた長谷川に、これからのアートシーンを背負う若者への期待を聞いた。

──コロナ禍で、美術館の役割やアートの楽しみ方は変化していますか。

以前から変わっていないのは、美術館は人が集まる開かれた場所であり、事物に触れることによって学びがあったり、対象に対する新しい解釈が生まれるきっかけを提供していたりする点です。

コロナ禍で美術館が長期の休館に追い込まれ、再開した際にはより一層その力を感じました。隣の人が鑑賞している姿を見たり、異なるバックグラウンドや価値観を持った方が対象についてディスカッションをすることで、共感の場が形成される。それこそが美術館の魅力でもあると改めて実感したのです。

対象となる現代アートの範疇は広がっているように感じます。エンターテインメントに近いポピュリズム的な作品も、今は広く「現代アート」として捉えられるようになっています。現代アートに対する価値観は人それぞれであるため、ある種そのポピュラーさを生かして人々を巻き込んでいく方法もあると思います。

また、NFTアートの台頭によって、作品を発表・販売するための新たなシステムもできており、これまでとは違ったアートの評価軸をどう定めていくのかが問われているように感じます。

新しいナラティブができる予感


──これからのアートシーンを担っていく若者に対し、どんな期待を抱いていますか。

社会の変化に合わせて人々の心理は移り変わっているものの、物語を求めたり、自分が物語に関わりたいと思う人間の本質的な欲求は変わっていません。そのため、特にキュレーターは広い視野を持ち、自分自身の身体感覚で今の時代を読み取る必要があります。

そしてそのうえで、何をどのように新しいメディアやアートの枠組みの中で扱い、提示するのかを考えなければなりません。先例のないことなので、ある意味パイオニア的存在になることが求められているといえるでしょう。
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文=倉本祐美加 取材・編集=田中友梨 写真=本人提供

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