不況で発明者の特許が急減、大企業がイノベーションの中心に

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英首相ウィンストン・チャーチルが「危機を無駄にするな」といったのは有名な話だが、現実として不況時には企業は節約し、イノベーションへの投資を減らすことが多い。

もちろん、チャーチルの言葉は、危機がそれまで当たり前だと思っていたことを見直し、新しいやり方を模索するきっかけになることを踏まえたものだ。米ケロッグ経営大学院の研究は本当にそうなのか調査している。

研究者は「1世紀にわたる米国の特許のデータと、危機の深刻さの地域差を利用した差分の差分法を使って世界恐慌後のイノベーションを検証した」と説明している。

不況時のイノベーション


研究で不況時に発明者の特許が急減していることがわかった。これは、経済危機による調達資金の減少が原因だと思われる。しかし、大企業は一般に経済危機を切り抜ける能力が高く、競合他社の活動の減少が実際に利益をもたらした可能性がある。

つまり、独立した発明家が活動を縮小する一方で、大企業の活動は安定する傾向にあり、研究の著者らは独立した発明家が大企業に確実性を求めていた可能性を示唆している。

ナスダックに上場しているFSD Pharma(FSDファーマ)の最高経営責任者(CEO)であるアンソニー・デゥルカチは「今日、革新的であるにはより費用がかかるようになっていることは広く認められているが、これは一般に好況時には問題はない。資本を容易に獲得できるため、小規模の企業でもイノベーションをおこせる。だが、これは不況時には当てはまらない。投資家や貸し手は安全第一のアプローチをとる傾向があるため、通常は実績があってすでに収入を得ている大企業が有利となる」と話す。

ハーバード大学の研究でも同様の結果が得られた。この研究では、新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に、個人がスタートアップと大企業のどちらで働きたいかを調査したものだ。

より安全な選択肢


研究者たちは、スタートアップが人材を採用するのによく使う代表的なプラットフォーム「AngelList Talent(エンジェルリスト・タレント)」のウェブサイトで求職者を追跡調査した。その結果、3月13日に米政府が新型コロナで非常事態を正式に宣言した後、求職者が大企業にシフトしていることが明らかになった。
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翻訳=溝口慈子

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