ソニーが嗅覚測定をDX、独自の「におい制御技術」が持つ可能性

ソニーが独自のにおい制御技術「Tensor Valveテクノロジー」を搭載するスマートデバイスを発表


専用カートリッジの開発製造には、本件におけるソニーのパートナーである第一薬品産業が携わっている。カートリッジから吐出された嗅素が混じり合わないように、バルブ構造にも独自の工夫を凝らしたという。ほかにもソニーが2016年に発売したパーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」という製品の開発時に培った流路構造のノウハウや、空気に着香する技術もまた、新製品のNOS-DX1000に最適化した後に搭載している。

ソニーが開催した記者発表会で、筆者もNOS-DX1000の実機を体験した。カラメルやスパイス、桃などの臭いが「ほんのり」とではなく、明快に感じられる。それぞれの臭いの正体について、記憶をたどりながら判定する時間は必要だが、そもそも「臭いが嗅ぎづらい」ことによるストレスは感じられなかった。

本機には脱臭機構も搭載されている。嗅素が混じり合ったり、外に漏れて服や持ち物につく心配はなさそうだ。においを提示する際には、本体とBluetoothで接続したタブレットに専用のアプリを入れて操作する。カートリッジを都度交換する手間も発生しないため、かなりテンポ良く嗅覚測定が実施できるだろう。ソニーは従来の手動による測定の約1/3程度の時間で測定が可能としている。


におい提示装置と連動するアプリ。においの提示操作や、被験者が選択したサンプルの記録等が行える

健康管理からエンタメまで、「嗅覚」の可能性を拓く


ソニーの藤田氏によると、同様の使い勝手を実現する「デジタルテクノロジーによりスマート化された「におい提示装置」」は世界初の試みであり、発表時点では他に類を見ない商品だと胸を張る。

藤田氏はソニーが2016年に発売したAROMASTICの開発にも携わったキーパーソンだ。藤田氏によると「AROMASTICを発売した当時から、この製品や技術を嗅覚測定に使いたいという要望が数多く寄せられていた。当時の技術では「臭いもれ」が発生したため、緻密な測定には使えなかった」のだという。


ソニーが2016年に発売したパーソナルアロマディフューザー「AROMASTIC」

今回はテンソルバルブのテクノロジーを確立できたことで、学術研究や企業の商品開発などシビアなデータを必要とする用途にも展開できるデバイスが完成した。NOS-DX1000は診断など医療行為を行うための医療機器ではないが、本機には耳鼻咽喉科学、神経内科学など嗅覚測定に携わる医師から早くも強い期待が寄せられている。
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編集=安井克至

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