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2022.10.07

「魚のゲノム編集」に投資家40社 リージョナルフィッシュの快進撃

リージョナルフィッシュCEO 梅川忠典


こうした「タンパク質クライシス」や「品種改良の進展」という大きな流れを解説したうえで、自社の技術の説明に移るのだ。つまり技術の特性や強みを力説しても、市場が存在しない状態では投資家には響かない。あくまでも大きなトレンドと自社プロダクトの関連性を力説するのが重要なのだという。

投資家の気持ちに立ち説得


「投資家にとっては、安く買って高く売れることが原則です。なので、イグジットする時には高い値が付き、いまがいかに安いのか、ロジックを示していく必要があります」

そのロジックとはどのようなものか。

リージョナルフィッシュは、創業の段階で「5年後にIPOする」と設定した。梅川は上場時から逆算し、4年目、3年目、2年目、1年目に達成すべきマイルストンを置いた。

上場時の売上や利益はいくらで、開発の進捗や社会受容はどこまで進み、内部の人員体制はどうなっているか。また、どの国に進出していて、時価総額の水準はどれくらいか。将来像を解像度高く描き、夢を共有する。

「『(創業時に)将来像からマイルストンを設定し、それを達成しています、ゆえに企業価値はこれぐらい。ここで投資いただき、その資金で次のマイルストンまで達成させます』と頼むことが大事です。他の京大発のスタートアップもIPOを目標に置いていますが、どのような状態になったら上場できるのか明確化ができてないところが多い。

SaaSによってユーザーが日に日に増えているのを見れば、誰でも伸びると期待します。ただディープテックの場合は、より投資家が理解しやすいような言葉で、技術により世界を変えるワクワク感を伝えるのが肝要です」

目標やマイルストンを明確化するのはプレッシャーともなるが、リージョナルフィッシュは、投資家に示した目標を着実に実行できているため、コンスタントかつ十分な金額のファイナンスができているのだ。

しかし、5年後のIPOを掲げていても、従業員のモチベーションを保ち続けることは簡単ではない。梅川は、中だるみが生じないよう、次のようにインセンティブの設計も行っているという。

「ディープテックは時間がかかるという一般認識や、5年という期間は気の緩みも生じます。なので、研究者の目標を細分化して『今期はここまでやりますしょうという最低限の目標を立て、達成できなければボーナスはゼロ。できたらボーナスを出します。目標をここまで上回ったら2倍出します』とわかりやすい報酬を用意しています」
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文=露原直人 編集=稲垣伸寿

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