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2022.10.02 11:30

カスタマーレビュー欄で輝く文才? 「アマゾンレビュー文学」の密やかな台頭

アマゾンで売られている「58万円の純金製サイコロ」に投稿されたレビュー


「フォロワーは要らない」の一期一会性


アマゾンレビュー文学には特徴的な要素がある。それは、作者と遭遇する機会が一度きりになってしまう可能性が高い、という点だ。
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例えばツイッターならば、気に入った作者のアカウントをフォローしておけばいい。前述の麻布競馬場氏のように、やがては纏まった単行本として出版されるかもしれない。


しかしアマゾンの場合、レビュアーの個別ページは作られるものの、フォロー機能は実装されていない。そのため、気になる作者は都度ブックマークするなどして能動的に追いかけなければならない。一人ならまだしも、複数人となればあまり現実的ではないだろう。
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そのうえ、追いかけ続けたところで同じ作者の、他の作品を期待するのは難しい。彼らは、あらゆるレビュー欄に「文学」を書き下ろしているわけではないからだ(ある商品のレビューで凄まじい熱量を発揮して長文をしたためているレビュアーが、別の商品には素っ気ない短文で済ませていたりもして、そのギャップも面白かったりするのだが)。

ある一つの作品を著すためだけに作られたと思われるアカウントも多い。そもそも商品のレビューが主体という性質上、コンスタントに次作を望むこと自体、無理な注文なのである。

レビューは一瞬の輝きであり、レビュアーとは一期一会だ。だからこそ、そこに残された文章は生々しい説得力を持ち、読む者に「文学」を感じさせるのだろう。

現時点では散在しているアマゾンレビュー文学だが、これらもまた、やがては単行本として出版されることもあるかもしれない。それに値する才能が眠っているのは確かだ。

他にも「食べログ文学」と呼ばれる世界が存在するなど、とりわけレビューサイトには「文学」が溢れがちだ。もちろんこういったサイトの目的はあくまでも商品やお店そのものの評価である。しかし文章が好きだという方……特に、一般的な書籍や記事だけでは満足できなくなった方は、時折アマゾンその他、各種レビュー欄を覗いてみてはいかがだろうか。

もしかしたらとんでもない掘り出し物、それも自分しか見つけていない、という優越感を伴った掘り出し物を発見できるかもしれない。



松尾優人◎2012年より金融企業勤務。現在はライターとして、書評などを中心に執筆している。

文=松尾優人 編集=石井節子

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