経済・社会

2022.09.22 07:45

チップ価格の急落に見る、資本集約型産業のサイクル

Getty Images

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コンピューターチップの価格が急落している。そう聞くと、驚く人もいるだろう。チップは世界的に不足しているのだから、価格は上昇を続けるはずだ、と。

チップ価格は、経済をめぐる重要な教訓を浮かび上がらせている。資本集約型産業(資本、つまり生産設備が事業の中心になる産業)では、価格の変動が非常に激しい。これは、原油価格や航空運賃など、数えきれないほど多くの業界で繰り返されてきたことだ。

コンピューターチップ工場の建設には多額のコストがかかる。半導体メーカーのインテルは2022年4月、米オレゴン州にある既存工場で30億ドルを投じた拡張工事が完了したと発表した。費用がそれほどの規模であれば、当然ながら時間もかかる。オレゴン工場の拡張工事は2019年に始まり、2022年に終了した。単なる拡張工事だというのに、だ。

しかし、拡張にそれだけの時間をかけているうちに、状況が大きく変わることがある。パンデミックが人間を死に追いやり、戦争が起き、不況が来ては去っていく。需要が不意に急増した場合には、供給がすぐには追いつかない。となると、物価は上昇する。供給が増えれば価格は下がるが、供給能力を高めて、より多くの製品を市場に送り込めるようになるまでには時間を要する。

同じ供給調整でも、原油となればさらに手間がかかる。原油を増産する場合はまず、地質の調査が必要だ。次に、新たに地震テストを行い、試掘井と生産井を掘削し、原油を出荷するためのインフラ基盤を構築しなければならない。こうしたプロセスには10年を要することもある。そうしているあいだも、原油価格はどんどん上がっていく。

では、需要が不意に急落したらどうなるのか。資本集約型産業の場合、生産コストのほとんどは、多額の設備投資として投入済みだ。実際のところ、コンピューターチップ工場や油田は、設備が完成してしまえば、稼働コストは比較的小さい。従って、価格が下落しても、企業側は量産にブレーキをかけようとはしない。少なくとも、価格がすさまじく下落するまでは生産を続ける。

資本集約型産業が抱える難題を浮き彫りにしたのは、多くの航空会社の倒産だ。

いくつか挙げるとすれば(カッコ内は倒産年)、イースタン航空(1989年と1991年)、ブラニフ航空(1982年)、コンチネンタル航空(1983年)、フロンティア航空(1986年と2008年)、パンナム航空(1991年)、ナショナル航空(2000年)、トランス・ワールド航空(2001年)、USエアウェイズ(2002年と2004年)、ユナイテッド航空(2002年)、エア・カナダ(2003年)、ノースウエスト航空(2005年)、デルタ航空(2005年)などがある。

需要が低下すると、企業は値下げして売上を維持しようとする。そしてある時点で、値を下げすぎた結果、収入が総コストを下回ってしまう。

売上で総コストが賄えなくても、企業は事業をストップさせたりしない。資本集約型事業の場合、コストの大半は、債務の返済などの固定費だからだ。事業を続けても、続けなくても、そうした固定費は支払わなくてはならない。事業継続の判断は、売上で変動費が賄えるかどうかにかかってくる。

航空会社にとっての変動費は、燃料費と人件費だ。石油会社なら、油田から原油をくみ上げるポンプ稼働費と、原油を製油所まで運ぶ輸送費であり、コンピューターチップメーカーなら、わずかな人件費とシリコンだ。こうした場合、需要が減ったとしても、供給される製品の量はほとんど減らない。したがって、需給バランスが均衡させるには、価格を急落せざるを得なくなるのだ。

資本集約型事業の企業と、設備投資が少ない企業を比較してみよう。多くの町には、児童や生徒に個別指導を行う塾がある。塾は、設備投資があまりいらない。初期費用として必要なのはせいぜい、教室スペースの賃料と広告費だ。講師は、生徒数に応じて採用すればいい。コストの大半は人件費であり、需要が下がれば削減できる。需要が急増すれば、事業の急成長も可能だ。ということで、塾に関しては、赤字経営が長く続くことはない。価格はかなり安定している。

こうした概念については、資本集約型ではない企業も理解しておく必要がある。自社の顧客やサプライヤーが、資本集約型事業である場合があるからだ。顧客である資本集約型企業に、継続してサービスを提供する会社は、かなり安定した売上が得られるだろう。しかし、同じ資本集約型企業に資本設備を提供する会社であれば、事業拡大には大きな波があることを覚悟しなければならない。また、資本集約型企業から製品を購入する会社は、激しい価格変動に備えるべきだ。

業界での経験が長い人なら、こうしたシンプルな法則を理解しているか、少なくとも感覚でわかっているはずだ。経営者になって日が浅い場合は、この法則を自力で探り当てていかなくてはならないかもしれない。顧客とサプライヤーも、この法則を理解して、各自の状況に当てはめていく必要がある。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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