EY Entrepreneur
Of The Year™ 2022
Finalist Interview
Finalist
Interview
アントレプレナーたちの熱源
unerry
代表取締役社長CEO
内山 英俊
#06
1998年、アメリカのミシガン州立大学——。キャンパスには、同大学を卒業したグーグル共同創業者ラリー・ペイジがたまに訪れていた。大学院留学中の内山英俊は、ペイジから開発されたばかりの検索エンジンのトップ画面を見せられたときのことを、昨日のことのように覚えている。
「何がすごいのかわからない。うまくいくはずがない」
ところが内山の想像と異なり、グーグルは世界的プラットフォーマーへと成長する。AI研究者だった内山は、自分のビジネスセンスのなさを痛感させられた。それは、内山の起業家としての原体験として記憶に刻まれた。
街中で使われていないビーコンに着目
内山はビジネススキルを身につけようと、大学院卒業後はコンサルティング業界に飛び込んだ。転機となったのは、スマートフォンの登場だ。アメリカでそれをいち早く目にした内山は、大いなる可能性を感じた。
2008年、内山はスマートフォンの利用を推進する会社を共同で立ち上げた。モバイルアプリやコンテンツによってユーザーを実店舗へ誘導するという、O2O(Online to Offline)の走りだ。ところが、スマートフォンが社会に浸透した約7年間での数々の試みを経て、超えがたい壁があると気づく。
「モバイルアプリをつくっても、そのユーザーが実際に店舗に行ったかはわかりませんでしたし、インパクトあるダウンロード数を得られなかったのです」
人々の行動を変えて店舗に誘導するためには、多くのユーザーを巻き込むための「規模」が必要だと内山は考えた。そこで着目したのが「Bluetooth電波発信器(ビーコン)」だ。受信機能をもつスマートフォンアプリがビーコンから発信される電波をキャッチすることで、位置情報を計測できる。商業施設や交通インフラなど、街中の至るところにビーコンは設置されているが、実は活用されていないものも少なくない。同時に、世間で広く使われているスマートフォンアプリに個別に営業を行い、ビーコンと反応する独自のソフトウェアを組み込んでもらうことで、ユーザ数を確保しようと考えた。内山はそれらを通じてスマートフォンの位置情報や行動データを蓄積して利活用する、リアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank(ビーコンバンク)」を構想した。それを実現すべく、15年にunerryを設立したのだった。
勝算はあった。きっかけは、コカ・コーラウエスト(現コカ・コーラボトラーズジャパン)との出会いだ。同社の数十万台の自動販売機には、ビーコンが搭載されていた。内山は、同社とビーコンの利活用に関する資本業務提携も締結した。
幸先いいスタートを切ったはずだったが、内山が当初思い描いていたようには事業は進まなかった。
「私たちは、自ら位置情報の取得に高いハードルを設けていました。15年頃には社会であまり意識されていなかったですが、プライバシーが問題になる日が必ずいつか来ると考え、創業当初よりアプリユーザーから必ず同意を得たうえでデータを取得すると決めていました。アプリを利用する際に、『アプリの機能を使うためにunerryに情報を提供する』という利用規約に同意した人からしかデータを取らない。当時は、そんなことをする必要はないと考えていたアプリの運営会社も多かったため、データを集めるのにかなり苦労しました」
潮目が変わったのは18年頃だ。世の中のプライバシー保護への意識が高まってきたのだ。創業時から位置情報の取得に細心の注意を払ってきたことで、unerryは安全だというイメージを植え付けることに成功し、取得データ量は増えていった。そうした状況の変化を受け、同社が提供するサービスも広がっていった。
「それまでは、個別のお客様ごとにソリューションを提供していたのですが、いまの主力事業である分析・可視化、広告、システムソリューションの3つのサービスが確立しました」
ビッグデータの解析や販売予測モデルの構築、それに基づいた広告・販促・店頭体験の提案など、流通・小売業向けのサービスが出来上がったのだ。
コロナ禍に「お買物混雑マップ」を無料公開
さらに同社の地位を確固たるものにしたのは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。人との接触を避けるため、「人流」が意識されるようになったが、そのデータの収集はunerryの得意とするところだった。
「それまで『人流データ』という言葉は一般的ではありませんでしたが、テレビや新聞で繁華街の人流データが紹介されるようになりました。これをかなり初期にご提供したのがunerryです」
以来、テレビ局や新聞各社からひっきりなしにデータ提供を求められるようになり、徹夜で対応しなければならないほどだった。売り上げを伸ばす絶好のチャンスだったが、内山は真逆の行動に出る。全国2.8万店のリアルタイム混雑情報を表示する「お買物混雑マップ」の無料公開に踏み切ったのだ。
「世の中の多くの人たちに使ってもらえるものは何だろうと考えたときに、当時皆さんがいちばん欲しかった情報は、3密回避のための混雑情報でした。特にスーパーやドラッグストアは絶対に行く場所だったので、混雑マップをつくろうと思い、2週間弱で開発してリリースしました」
公開すると、ネットメディアをはじめ多くのメディアに取り上げられ、unerryの知名度は急上昇した。
「人流データというカテゴリーができたことによって、はじめてunerryが世の中のお役に立つことができたと実感しました。社会が前進することが私にとって重要なことです。学生時代には文部省(現文部科学省)から選んでいただき、アメリカの大学院に行く機会をいただいたことが起業のきっかけとなった。そうやってたくさんの人に支えていただきいまの自分があるので、社員も含め、次世代の人たちに対して何かを返していくことは、常に考えなければならないことだと思っています」
混雑マップの無料公開は、事業にも影響を与えた。引き合いが爆発的に増え、くだんの3つのサービスの売り上げが伸びたのだ。
「毎月数多くのお客様が混雑マップを見て買い物に行くようになったので、日本全国の小売店さんが私たちの存在を知ることになりました。それによって、私たちのサービスを利用してプロモーションをしたいというお客様が増えたのです」
信頼を得られたことで、取得できるデータ量も増えていった。現在では、連携する120種類以上のスマートフォンアプリ経由で月間300億件以上の人流データを蓄積している。
海外のスマートシティにも注力
unerryは、スマートシティにおいても欠かせないパーツになろうとしている。19年から三菱地所とともに、丸の内エリアに約700個のビーコンを設置し、人々のリアル行動データを解析している。
「これだけデジタルが発達した社会においても、人々がECを通じて購買している割合は8%に過ぎません。ほとんどの購買は実店舗・実社会で行われているのです。ところが実社会ではデータ化があまり進んでいないので、店舗が混雑しているかどうかすらわからないのが実情なのです。
また、家のポストには毎日、読みきれないほど膨大な量の紙のチラシが届きますし、街に出かければ数えきれないほどの看板があります。非効率は、この社会にはまだ眠っているのです。私たちはこの実社会をデータ化します。それをAIで分析し、心地よい体験を届ける。これが私たちのパーパスです」
内山がスマートシティについて注目しているのは海外市場だ。unerryは21年、三菱商事と資本業務提携を締結した。unerryは、三菱商事が開発に取り組む海外の都市や地域で移動・交通ニーズの定量的評価や人流最適化を図る行動レコメンドを行うことで、レジリエントで暮らしやすい街づくりに貢献していく。
「世界では、スマートシティのIoTに関わる市場だけで171兆円の規模があります。リアルの世界をデータ化して整理し、価値を付けてサービス化する。私たちは『リアル版グーグル』を目指しているのです」
内山英俊
1976年、愛知県名古屋市生まれ。ミシガン大学大学院コンピュータサイエンス修士課程修了。経営コンサルティング会社などを経て2008年、スマートフォン普及を推進する企業を共同創業し、日本のオムニチャネル市場の創出に寄与。15年にunerryを設立。22年7月に東京証券取引所グロース市場に上場。
unerry
本社/東京都港区虎ノ門1丁目17番1号 虎ノ門ヒルズビジネスタワー15階
URL/https://www.unerry.co.jp
従業員/39人(2022年6月時点)
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