EY Entrepreneur
Of The Year™ 2022
Finalist Interview
Finalist
Interview
アントレプレナーたちの熱源
ローツェ
取締役相談役
崎谷 文雄
#02
現在、世界中の半導体工場の大多数でローツェの搬送ロボットあるいは装置が稼働している。ローツェは「設立の理念」として5つの項目を掲げている。そのうちのひとつに注目したい。
“会社は個人の技術を発揮して実務に結びつける所であり、同時に個人の技術を向上させて将来の夢を実現させる所である。従って、時間管理による給与よりは、実務功績を重視する。”
いま、実務功績を重視したローツェの給与は、全従業員222人の平均額が「1,122万円」となっている(2022年2月末現在)。
なぜ、ローツェという太陽は
沈まず、輝き続けるのか
1985年にローツェを創業し、現在は相談役を努めているのが崎谷文雄だ。ローツェは創業以来、36年にわたって年平均21.47%の成長率で発展を遂げてきた。自社の革新と発展が社会の革新や発展へと確実につながっている。そのように強く想える36年であり、やりがいに満ち溢れるアントレプレナー人生を過ごしてきたに違いない。
「ローツェは、半導体製造工場および液晶ディスプレイ製造工場で使用される無塵化対応ロボットをはじめ、その応用装置の開発・製造・販売を主な業務としています。創業時から大切にしてきたのは、『他社がすでに販売している同等品は製品にしない。従来より優れた製品、世界的にニュースとなる製品のみを商品化しよう』という信念です」
崎谷が語るようにローツェの歴史は独自の製品を生み出してきた歴史にほかならない。超小型モータ制御機器、クリーンロボット、デュアルアームロボットなど、ローツェが世界で初めて開発に成功した製品の事例は枚挙にいとまがない。当然ながら、製品の頭脳であるコントローラー、心臓であるモータードライバー、五感であるセンサーなどのコアパーツを自社ならびに海外のローツェグループで開発・内製化してきた。
自社開発、自社生産を貫き通し、徹底的にオンリーワンを追求する姿勢。これこそが、ローツェに受け継がれてきたカルチャーの最たるものである。
「現在、ウエハ搬送装置(=半導体の基板であるシリコンウエハを半導体製造工程内で搬送する装置)の分野では世界シェア1位のポジションにあります。国際競争力に強い製品を生み出す技術力がローツェの強みであると同時に、激化する国際競争のなかでコスト競争力を確保するために、ベトナムに量産製品製造拠点としてグループ最大の工場(敷地面積が約4万7,000㎡、延べ床面積が約8万㎡)を保有しています」
日本においては本社工場が広島県福山市、九州工場が熊本県合志市にあり、横浜に事業所を構えている。海外拠点は米国、ベトナム、台湾、韓国、シンガポール、中国、ドイツに置いている。
ローツェが創業した80年代には、日本企業の多くが世界のなかで高い競争力を誇っていた。落日の気配が顕著となっていった90年代、00年代、10年代においても、ローツェは技術に磨きをかけ続け、特許の山を築き続け、半導体製造の世界において沈まない太陽であり続けた。単に沈まないどころか、いまだに昇り続けている。
「個人を最大限に尊重しながら、国際社会において『技術に自信をもって楽しみながら仕事のできる集団』として価値創造を究めていく。それが、ローツェという企業のあり方です。『個人の尊重』なくして、『価値創造』という成果にはたどり着けません。年齢や社歴、役職などに関係なく各々の個性を強みにしながら、それぞれが能力と専門性を発揮できるような制度の整備や風土の形成にこれまで努めてきました」
ローツェでは個人の専門的技能の向上に対する支援を積極的に行っている。各種講座の受講料補助などによるスキルアップの奨励。資格取得時の合格祝い。独自の技術を発明し、特許などの権利を出願した際に発明者に支給される報奨金。実際に特許などの権利を得て販売した製品の利益額に対し、一定の割合で追加支給される報奨金。これらは、ほんの一例に過ぎない。また、新卒・中途採用を問わず、すべての新入社員はグループ最大の工場があるベトナムで研修を受けている。基礎的な業務を学び、海外スタッフとの連携を図りながらグローバルで働く感覚を身につけている。
「従業員の一人ひとりが常に向上心をもって挑戦する。年齢や社歴、役職などに関係なく意見をぶつけ合う。そうしたカルチャーを醸成してきたことが、自社開発、自社生産を貫き通し、徹底的にオンリーワンを追求するカルチャーを支えているのです」
ローツェに受け継がれるカルチャーは一層ではない。何層ものカルチャーが積み重なることで、「個人と企業の絶え間ない成長」という好循環が生み出されている。そうしたポジティブな循環こそ、ローツェという太陽が沈むことなく輝き続けるための熱源になっているのだ。
幸せを希求するひとしずくが、
いつしか大海になる
ローツェという太陽が沈むことなく輝き続けるための熱源。その最初のひとしずくを突き詰めていくと、やはり創業者である崎谷の思想と行動にたどり着く。さらに突き詰めていくなら、思想と行動の前に「幸せだ!」という揺るぎない気持ちがある。
「それはもう、幸せですよね。自分が好きな電子工学の分野でずっと生きてこられたわけですから。そもそも、電子工学の道に進みたいと思った契機は中学1年のときです。近所の農協で電器屋のおじさんがラジオ修理の出張サービスをやっていました。その場でラジオを分解して、次々と直していくわけです。『これはすごい』と思いましたよ。すぐに、その電器屋でアルバイトをはじめました(笑)」
以来、電子回路に関する本を読みあさり、高校時代にはお客さんの家にひとりで修理に出かけていた。早熟だった崎谷少年が遂に現在の会社を起こしたのは40歳のときだ。間に専門学校をはさみながら、ふたつの大学に通った。そして、5回の転職を経験した。それらのすべてがいまに生きている。
「個人を最大限に尊重する。技術に自信をもって楽しみながら仕事する。世の中にないものをつくる。現在のローツェの基盤になっている考え方は、ローツェを立ち上げるまでの日々があって醸成されたものですからね。広島県福山市神辺町の田んぼに囲まれた土地に一棟のプレハブ小屋を建てて、ローツェは私を含めて社員6人でスタートしています。そのプレハブ小屋の小さな窓から世界を見据えていましたよ。中学生のころから変わることなく、好きなことで勝負していることの幸せが私を動かしていました」
創業からわずか2年後の87年には、半導体部品の搬送過程において塵を出さない世界初のクリーンロボットを開発したことにより、ローツェは世界の表舞台に立った。
幸せな人間は、穏やかな顔をしているものだ。いま、日本でどれだけの会社が平均給与1,000万円超えを果たしているだろう。その会社を創業した英傑たちのなかで、どれだけの人間が穏やかな顔をして過ごすことができたのだろう。
崎谷文雄の穏やかな笑顔のなかに、日本のものづくりの凄みを観た。
「02年からは同じ福山市の企業であるアドテック プラズマ テクノロジーの藤井社長とともに、福山市教育委員会やポリテクカレッジ福山校などの後援を受けて、中学生を対象にした『楽しい電子工作教室』を定期的に開催しています。青少年の理科離れやものづくりへの興味の減退という状況に対し、危機感を抱いたからです。おかげさまで、毎回定員オーバーで抽選になるほど盛況になっています」
いま、自身がそうであったように、崎谷は「一生続く幸せとの運命の出会い」が地元の中学生に訪れることを願っている。最後に、崎谷がアントレプレナーとして大切にしてきたという言葉を挙げておきたい。明治5年に生まれ、100歳を超えてもなお創作活動を続けた彫刻家、平櫛田中の言葉の一節である。
実践、実践、また実践
挑戦、挑戦、また挑戦
修練、修練、また修練
やってやれない、ことはない
やらずにできる、わけがない
いまやらずして、いつできる
わしがやらねば、だれがやる
崎谷の穏やかな笑顔のなかには、やはり凄みが隠れているのである。
崎谷文雄
1945年、岡山県生まれ。71年、静岡大学工業短期大学部電子工学科を卒業。85年、ローツェを創業。2015年、創業時から就いてきたローツェの代表取締役社長を退き、代表取締役会長に就任。16年8月、東証一部に上場を果たす。17年、現職の取締役相談役に就任。18年、内閣府から旭日双光章を受賞。
ローツェ
本社/広島県福山市神辺町道上1588-2
URL/https://www.rorze.com/
従業員/222名、連結:3,670名(2022年2月末現在)
Promoted by EY Japantext by Kiyoto Kuniryophotographs by Shuji Gotoedit by Yasumasa Akashi