ガイム博士は筆者に対し「セロテープに付着したグラファイトの薄片は一部の人にとってはごみだが、他の人にとっては宝だった」と述べた。最初は十分な薄さではなかったものの、テープに付いた薄片が小さな変化を生み、最終的には大きな突破口につながった。
薄片の付いたセロテープを得るまでに運が関係していたのはもちろんだが、ガイム博士がその運を引き寄せたのだ。多くの人は、運が偶然やってくることを期待してじっとしているものだ。しかしガイム博士は常に好奇心を持ち続け、分野横断的に考え、最初は直接関係があるように見えない分野も含めて新たな分野を探索する意志を持っていた。
「関係がないように見えた知識が、発見において重要な役割を果たす」とガイム博士。
「自分を育て、他の人が見つけられなかったような新たな興味深いものを見つけられる可能性を向上させなければならない。直線に沿って動いていれば、同じことをしている人が多くいるはず。これは、象の群れの中で小さな草むらを見つけようとすることと同じだ。複数の分野をカエルのように飛び回れば、それまでに誰も踏み入れたことがないような草むらに着陸する可能性がある」(ガイム)
こうした金曜夜の実験が必ずノーベル賞につながるわけではなく、イグ・ノーベル賞につながる場合もある。イグ・ノーベル賞とは「人々を笑わせ、その後考えさせる」発見を称賛するものと説明されていて、特異な発見を祝福する賞だ。
ガイム博士は好奇心に駆られた夜の実験を通し、強力な電磁石を使って水やカエル、ペットのハムスターを浮遊させこの賞を受賞した。(博士はこのハムスターを論文の共著者としている)
真剣な研究なのにそれを軽視されていると考えたのか、同僚の中には同賞の受賞を辞退するよう博士に促す人もいた。しかし、博士の成功の原動力となったものは好奇心と実験なので、ノーベル賞とイグ・ノーベル賞はどちらも非常に妥当なものに思えた。
ガイム博士が自身の博士課程の学生らに授けるキャリアのアドバイスは、他のイノベーターにも役立つものだ。
「私は博士課程の学生から、論文にどのようなタイトルをつければよいかと尋ねられることがある。3カ月後に何が起きているかも予測できないのに、4年後に何が起きているかを私に予測してほしいなんて無理だ。一つのことから始め、その過程で数カ月の間に何か新しいものを見つけられればよい。科学の揺り籠から一直線に科学の棺おけへと進む人があまりに多過ぎる」(ガイム)
革新的な人は、リスクを冒し、慣習に異議を唱え、野心的な目標を追求しているとされることが多い。ガイム博士の助言を踏まえると、これは意外なことではない。
(forbes.com 原文)