変化する価値観と、そこから生まれるウェルビーイングビジネス

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価値観の変化とともに、若い世代の購買行動も変わってきました。

高級外車に乗り、都心のタワーマンションの最上階で高級家具に囲まれて暮らす。そんな生活に多くの人が憧れる時代がありましたが、今は、海のそばの静かな古民家でのんびり暮らすことを理想に描く人も増えてきています。

また、SDGsの流れを受けて社会貢献への関心が高まり、「地球にやさしい」「何かのためになる」などのマインドが消費行動にも影響を与えるようにもなってきています。

プラスチック製品や使い捨て製品より、リサイクルしやすいものを選ぶ。環境を損ねるものより環境にやさしいものを優先する。格差や貧困を解消するものに賛同するなど、「価格とは別の理由」で購入する人たちが増えてきています。

人種差別に抗議するキャンペーンや民間のリサイクル活動などに多くの人が参加したり、貧困のない公正な社会をつくるためのフェアトレード商品を積極的に購入する人たちが増えたりしているのは、どこかで人の役に立ちたいという思いがあるからでしょう。そうした行動で、自分の心が満たされる。それは、個人のウェルビーイングを実現でもあるといえます。

ウェルビーイングを実現するプロダクトやサービス


ウェルビーイングビジネスというカテゴリーが明確に存在するわけではありませんが、すでにいくつかのビジネスが若者たちを中心に支持を集めています。ヨガ、禅、サウナ、呼吸法……。共通のキーワードは“整う”です。

特にサウナは、瞑想や禅といった求道的なアプローチよりも手軽に心を整えられるアクティビティとして注目され、銭湯やスポーツ施設に併設された従来のサウナだけでなく、専用施設が次々と誕生。キャンプ場やリゾートホテルなどにもテントサウナが設置され、サウナ活動(サ活)、全国各地のサウナ施設を巡る旅(サ旅)などを楽しむ人たちが急増しています。



また、「社会との関係性」という観点から、「リトリート」にも注目が集まっています。リトリートとは、数日間いつもの生活拠点から離れ、外的干渉から距離を置き、自分自身のリズムを取り戻す時間をつくること。そのひとつとしhて人気なのが「ソロキャンプ」です

文字通りひとりでキャンプをするソロキャンプは、3密を避けられるとあって、特にコロナ禍でブームが加速。SNSやユーチューブでノウハウや楽しみ方が提供されていることもあり、今では女性のソロキャンパーも増えてきています。

かつて「一億総中流」という言葉がありましたが、日本人は、個人の突出した幸せを考えるより、いわゆる平均的な暮らしを好み、それにより十分に満たされていました。一方で欧米は、まず個人があって社会があり、自分のやりたいことがあって、どうしたら社会や組織と共生できるかを考えます。

そして、世界との距離が近くなり、価値観のグローバル化が進んだ若者は、社会や会社にまかせきりでは幸せになれないと気づき、違うものを好むようになっています。

ターゲットとする生活者の思考が変われば、プロダクトもサービスも変わります。そして、企業が持続的な成長を続けるためには、こうした変化に対応するのは当然のことです。ただ、ウェルビーイングビジネスのために、まったく新しいことを始める必要があるかといえば、必ずしもそうではありません。

なぜなら、すべての産業が、これまでも人の幸せのために存在し、それにより支持されてきたはずだからです。それでも今行き詰まっているとしたら、それは、顧客の環境や思考の変化に気づいていないからではないでしょうか。

もう一度、顧客にとってのウェルビーイングとは何かを考える。自分たちは、どうやってお客さまを幸せにしてきたのか、これからどうやって幸せにしていくのか。従来の自分たちの姿を見つめ直すと、そこにお客さまとの新しい関係性を発見することができるはずです。

全てのビジネスは、原点に立ち戻ることでウェルビーイングビジネスになることができる。私はそう考えています。

文=藤田康人

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