キャリア・教育

2022.09.29 08:00

次の次の自分を描く キャリア戦略にも「書くこと」が役立つ


よく練られた戦略ほど、見た目にはシンプルでわかりやすいものだ。冒頭の言葉も、裏を返せばそういった意味になるのだろう。

その例として、Appleの創業者・スティーブ・ジョブズの話を紹介したい。実は、創業者の彼が1985年から1996年までAppleを離れていたことはご存じだろうか。ジョブズ不在のAppleは業績を大きく落とし、瀕死といってもいいような状況だった。その後彼が戻ってきた1996年以降の躍進は、皆さんもご存じの通りだ。

では、戻ってきたジョブズはAppleでなにをしたのか。それは、製品の種類を圧倒的に絞り込むことだった。今では知る人も限られているが、当時のAppleはプリンタやデジタルカメラなどを作るメーカーであり、カテゴリにして数十種類を展開していた。


スティーブ・ジョブズ(1996年撮影、Getty Images)

ある日ジョブズはホワイトボードに縦軸と横軸を描き、縦軸には「消費者 / プロ」、横軸には「デスクトップ / ラップトップ(ノートパソコン)」とだけ記した。そしてこのマトリックスに収まる領域以外の製品をバッサリと切り捨てたのだ。

膨大なデータを集めたり分厚い資料を作ったりしなくても、「なぜ」と「なに」が非常にクリアになっている、とても良い戦略の例だと思う。

「次」ではなく「次の次」の自分を描く


この連載のテーマであるキャリアの話に戻そう。僕は採用面接のとき、必ず「5年後の自分をどう描いていますか?」と聞く。返ってくる答えは二パターンある。一つは「このポジションに着いていたい」という具体的なもの。もう一つは、その場凌ぎの曖昧な答え。

この問いには正解はなく、僕が見極めようとするのはその人が戦略的に自分のキャリアを考えているかどうかだ。僕もそうだったのだが、転職をするというのは次の自分を見つけるステップでもある。つまり1年から3年ぐらいの時間軸で自分の未来を築くわけだ。

ではその先には何があるのか? どうありたいのか? 5年後の未来を予測するのは難しい。もちろんそのイメージは明確であるほどいいと思うが、明確でなくてはだめかというとそうでもない。だが「次の次」の自分を描くことにより「なぜ」が明確化され、「次」の意義もはっきりしてくる。

「最高の広告は広告ではない」


AKQAに入る前、ありがたいことに僕はたくさんの広告エージェンシーからオファーをもらっていた。当時はYouTubeやSNSが登場した頃で、企業はマス広告にかけていた多額の予算を徐々にデジタル領域に移していた。そして、多くの有名なエージェンシーがデジタル人材を採用し始めていた。それまでデジタルの領域はかなり狭く、僕もマス広告の方向に行くべきかとも悩んだ。

そんな僕にヘッドハンターは「デジタルの領域でキャリアを積もうなんていう考えでは、この世界では生き残れませんよ」と言った。つまりデジタル専門のエージェンシーではなく、マス広告を扱う大手エージェンシーに行った方が無難だよ、と言いたかったようだ。
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文=レイ・イナモト

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