ビジネス

2022.09.12

マネフォの危機を救ったデザイナー 「トップの言葉」をどう伝えたのか?

左から、マネーフォワードの金井恵子とCEOの辻庸介(撮影=小田駿一、デザイン=中根涼花)


最初は、創業期に作った行動指針をカードにして持ち歩けるようにしようと思い、そのデザインを金井に依頼しました。しかし行動指針には「Work Hard」などの言葉が並び、時代にも組織にも合わないものになっていると金井から指摘を受け、MVVCの策定を模索することになったのです。

「ボトムアップ」の落とし穴


──MVVCを作るうえで、どんな苦労がありましたか。

金井:「売り上げにつながらないことを、なぜやるのか」という反発もありました。答えがなく、自分自身も半信半疑で。マネージャーたちは同じような悩みを抱えていたので共感してくれたものの、全社員が賛同するまでにはなかなか至りませんでした。

:当時の金井はよく「みんなが聞いてくれない」と悩みをこぼしていましたね。でも僕は「最初から分かってくれる人なんていない。そんなもんだ」って言ったんです。

もちろん伝わらないというのは辛かった。でも腹落ちしてもらうまで、やりたいことやその背景を繰り返し説明し続けないといけない。想いが伝わってメンバーが動くことが大事なので、「腹落ち」は僕にとってキーワードです。

金井:そこでまずは、みんなの意見を聞き始めました。現場からボトムアップで有志を募り、「どんなメッセージやバリューがいいか」を話し合ったんです。でもこれは結局、失敗に終わりました。というのも辻の想いが言葉に反映されなかったからです。

金井恵子

いくら議論しても、本人の想いがこもっていなければ説得力のある言葉にはならないんです。実際に、総会でMVVCを発表しようとしたら、辻が言葉に詰まってしまい、白けたまま終わるという、とんだ結末に……。

:それで僕もプロジェクトに参加するようにしたのですが、当時の行動指針と同じように僕が発していた「勝ちきれ」などの言葉は熱意が強すぎて、とても汎用的なものではなかった。

小さなスタートアップを成長させるため、昼夜問わず働いていた時期もありました。そういう日々を過ごし、会社と自分が一体化している経営者と、入社してきてくれるメンバーとで、温度差や当事者意識に差があるのは当然のことです。だから意味は同じでも、「伝え方」は工夫をしなければならないと思いました。

「伝えたいこと」の勘所を掴んだ


──そこで活躍されたのが金井さんだった。

:そうです。経営者の熱量というのが人によっては「重い」と感じてしまう。そこで金井が「その言葉では伝わらない。こういう表現の方がいい」と率直な感想を述べながら、僕の言葉を柔らかくしたり、トゲのある表現を省いたりとうまく翻訳してくれたんです。

金井:私はメンバーに共感してもらうことを意識していました。しかし辻が、直接メンバーに体育会気質の強い言葉を伝えてしまう時期もあり、広報と私と辻ですり合わせ、どうしたら伝わるかを話し合っていました。

当時は辻の登壇資料も手伝っていて、「なぜそう思うのか」「みんなにどう感じてほしいのか」など伝えたいことをヒアリングしていました。辻の価値観を深堀りするという試行錯誤のなかで、彼の「伝えたいこと」の勘所が分かってきたんです。
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文=吉見朋子 取材・編集=露原直人 撮影=小田駿一

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情熱の通訳者─リーダーの想いを届ける言葉の作り手たち

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