制度の導入から7年後に運用が恒久化されたことをきっかけに、ISAの残高と口座数は大きく伸びた。実際に、英国では20年間で家計金融資産2.3倍になっている。国民全体に資産形成の恩恵が受けられる環境づくりの成功事例と考えられる。
ISAは、特に低所得者層や若年層に対しても普及していることが高く評価されている。恒久化した後も、英国政府は制度をシンプルにし、更なる国民の貯蓄習慣の定着を目指してきた。
なお残る、制度の複雑さ
今回の改正が実現されれば、3つのNISAが一本化されて制度がシンプルにはなるものの、なお複雑な点が残る。一本化される「総合NISA」の中にもグラデーション・セグメント分けがある点は理解が難しい。
総合NISAの中心部分は現在の「つみたてNISA」がメインとなる。積み立て方式で長期運用に適した投信だけが投資対象だ。そして、総合NISAの一部を「成長投資枠」とし、現行の「一般NISA」の機能を実質的に引き継ぐ。これによって、一般NISAと同じく上場株式や株式投信に幅広く投資できるといったように、制度の内部で分かれている。
非課税枠などの拡大が行われても、制度がシンプルでないがゆえに利用者が増えなければ意味がない。
また、NISAを利用して購入できる金融商品が多岐にわたるため、最後は「金融リテラシー」を高める「教育」が最も重要だ。今回の改正要望は、国民の資産形成の追い風になることが期待できる意欲的な抜本改革案であるが、「金融教育」も合わせて岸田政権の本気度が試される。
巷では、高額で金融を学ぶものも増えてきている。しかし、儲かるであろう金融商品を教えることは教育ではない。「金融の仕組み」「経済情勢」「企業分析の方法」「金融商品の理解」などを一つ一つ学び、自ら判断できるように育てることが教育だ。金融を学べずに置き去りになっている大人も多い。社会人の金融教育にも力を入れて欲しい。
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