伊坂幸太郎ワールド全開、日本が舞台のブラピ主演作「ブレット・トレイン」 


日本を舞台にしたハリウッド作品といえば、過去にはかなり「誤解」を招くような表現もあった。「ブレット・トレイン」にも、現実の日本とはかけ離れた描写もあるのだが、それが「誤解」ではなく、製作者側の意図したものであることがこの作品を興味深いものにしている。

劇中で描かれるのはけっしてリアルな世界ではないのだが、そこには日本文化に対する細やかなリスペクトが感じられる。登場する駅や看板から自動販売機や食べ物に至るまで驚くほど理解が深く、観る側としてはそれらを発見して楽しむのもいいかもしれない。

また、超高速列車のなかに「モモもん」というオリジナルキャラクターにちなんだ車両があったり、主人公のレディバグがトイレでウォシュレットと「格闘」したり、突然懐かしいカルメン・マキの曲が流れてきたり、確信犯的に登場する日本的なものが、物語のなかで印象的なシーンを演出している。


『ブレット・トレイン』より。劇中に登場するモモもん車両

全体としてアクションコメディではあるが、後半、数少ない日本人キャストである真田広之扮する剣の達人エルダーが列車に乗り込んでくると(なぜか乗車駅は米原駅)、物語の様相はにわかに変貌していく。格闘シーンが展開されるのはもちろんなのだが、内に秘められた壮大な復讐劇も織り込まれている。


『ブレット・トレイン』。クライマックスに登場するエルダー(真田広之)

日本を舞台にした映画でありながら、登場人物の多くが白人ということもあり、アメリカでは「ホワイトウォッシング」だと話題にもなったが、もともと伊坂作品には無国籍な匂いもあり、違和感は感じさせない。むしろ、小説の伊坂ワールドの味わいがそのまま生かされ、見事に映像化されていると言ってもいい。

伊坂作品を英語圏でも広めたい


特筆すべきは、映画のなかで、かなり原作のエピソードが生かされ、使われている点だ。通常、ハリウッドなどで映画化される場合、ストーリーの骨格だけを抜き出し、それ以外のディテールなどは新たに開発するというケースも多く見られる。

「ブレット・トレイン」では、原作の「マリアビートル」に登場する掛け合い漫才のような殺し屋コンビの会話をはじめ、「きかんしゃトーマス」のエピソードなどがそのまま数多く採用されている。伊坂自身も「想像以上に、小説のアイデアを使ってくれていることに驚きました」と語っているほどだ。
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文=稲垣伸寿

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