オンライン科学誌プロス・バイオロジーに発表された論文によると、研究チームは睡眠時間と人の行動について、3種類の調査を行った。一つはサマータイムの開始と寄付の関連性について調べたものだ。
サマータイム制度を導入している米国の州では、時計が1時間進められ、その分の時間を失うことになった日から1週間、慈善団体への寄付額が10%減少していたという。この制度がない州では、同じ時期にそうした変化はみられなかった。
論文の共著者である同校のマシュー・ウォーカー教授(神経科学・心理学)は声明で、この結果が示すのは、「1時間というごくわずかな睡眠時間の短縮でも、人間が生来持つ優しさ、困っている人を助けたいという気持ちに明確な影響を及ぼし得るということだ」と説明している。
もう一つの調査では、チームは8時間の睡眠を取った後の脳活動と、一晩徹夜した後の脳活動を比較した。その結果、睡眠を取らなかった後の脳は、社会性に関わる(共感したり、互いの願望やニーズを理解しようとするときに働く)領域の活動が著しく低下していたことが分かったという。
さらに別の調査では、チームは100人以上の協力を得て、それぞれの3〜4日間の睡眠の質を測定。それらの結果と「人助けに関するアンケート」への回答を比較した。その結果、睡眠の質の低さは「他人を助けたいという気持ちを大幅に低下させる」ことを確認したという。
ウォーカー教授はこうした結果を受け、次のように述べている。
「助けることは、人間が持つ基本的な特性だ。この新たな研究の結果が示すのは、睡眠不足は人間社会の基礎構造そのものの質を低下させるということだ」
「私たちが社会的な生き物としてどのように活動するか、それは私たちがどれだけの睡眠を取っているかに深く関わっているとみられる」
個人の問題ではない?
過去の研究結果から、睡眠不足は糖尿病や心疾患、肥満、うつ病など、さまざまな健康問題との関連性が指摘されている。また、近年の研究では、引きこもりや孤立をはじめとする社会的行動との関連性も示唆されている。
研究チームは今回発表した論文のなかで、睡眠不足は「他者の感情や表情を理解することを難しくする」など、脳の感情処理を妨げ、同時に情動反応性を高めることにより、「互いに助け合おうという意欲に影響を与えているのではないか」との仮説を立てている。
睡眠不足はストレスを受けると急増する“ストレスホルモン”、コルチゾールの分泌量を増加させる。睡眠不足によってもたらされたストレスが、私たちの社会的行動に影響を及ぼし、利己的な選択をすることにつながっている可能性もあるという。
(forbes.com 原文)