パーソナライズされた「たまごっち」
ハギング・フェイスは、自然言語処理(NLP)と呼ばれるAIの一種を搭載した、“パーソナライズされたたまごっち”のようなツールとしてスタートし、チャットボットのトレーニングには、スポーツや教室での噂話など、さまざまな会話のデータセットを利用した。それと同時に、コードをGitHubで無償公開した。
彼らは、ニューヨークのスタートアップスタジオBetaworksが運営するボット専門のアクセラレータプログラムに参加し、NBAのスター選手、ケビン・デュラントからシード資金を調達した。しかし、2年経っても彼らのチャットボットはあまり儲からず、若いユーザーからの関心を失いつつあった。
しかし、転機となったのは2017年にグーグルとOpenAIの研究者が、当時最新鋭のNLPモデル、「トランスフォーマー(transformers)」の開発を発表したことだった。
ハギング・フェイスのライブラリは、こうしたNLPのブレークスルーを活用したいが、ゼロから構築する機械を持っていない組織にとって、最適なタイミングで世に出ることになり、機械学習コミュニティの開発者が一気に押し寄せた。「あまり深く考えずにリリースしたところ、自分たちでも驚くほど爆発的な支持を獲得した」とドランジュは言う。
ハギングフェイスのシリーズCを主導したLux Capitalのブランドン・リーブス(Brandon Reeves)は、2019年の年の暮れの金曜日にサンフランシスコのコーヒーショップで初めてドランジュに会った。投資のチャンスを逃すことを恐れた彼は、翌月曜日に8000万ドルの評価額でタームシートを提示した。
リーブスにとって、それは異例のスピードでの投資だったが、Lux Capitalから出資を受けたハギングフェイスの利用者数は、その後も急増し続けた。開発者たちは、10万以上の機械学習モデルを構築し、他の開発者もそれらの事前学習済みモデルを自分のAIプロジェクトに利用できるようになった。
GitHubにはスター(Star)と呼ばれる評価システムがあるが、ハギングフェイスは、ConfluentやDatabricks、MongoDBなどの有名プロジェクトよりも速いペースで、スターを蓄積していった。
資金調達環境が悪化する中でデータ・スタートアップ・エコシステムの一部では、彼らが現在の評価額を正当化出来るほど収益を伸ばすことができるか、懐疑的に見る向きもある。しかし、ドランジュは、十分な数の無料ユーザーがハギングフェイスに夢中になれば、やがてお金がついてくると考えている。「機械学習がテクノロジー構築のデフォルトの方法になれば、この分野でNo.1のプラットフォームは当然、数十億ドルの収益を上げることになる」と彼は話す。