アートギャラリーで気づいた、空間情報の価値
不動産色が強いスペースリーだが、始まりは少し意外だ。同社は2016年の11月にローンチ。2016年は「VR元年」とも呼ばれ、VR機器や360度カメラなどデバイスの消費者版が出始め、またスマホでそれらのデータを扱えるようになるなど、技術的に大きな進歩があった年だ。森田氏の言葉を借りるなら「Googleのストリートビュー以上のレベルのコンテンツが、手の届く金額で手に入る世界になってきた」時代だ。
当時森田氏は、現代アートのマッチングプラットフォームを運営していた。ギャラリーや個人が所有する質の高い作品を、画像や情報を通じて、事業者や一般消費者とのマッチングを行う。そこで目をつけたのが、空間情報だった。
「アートギャラリーでは、作品の魅力を最大限引き出すために、意図をもたせた空間が作られています。作品や文脈をどういう順序でどう伝えて、だから壁の余白は多くとろうとか、照明をどう当てようとか。写真や動画などの既存のメディアは、基本的に主観が入って撮影されます。それに対して、空間全体をそのままキャプチャーしてそのまま伝える情報フォーマットはすごく面白いなと思いました」
当時よりVRはゲームの領域で盛り上がってはいたが、もっと一般的な事業者や消費者が使いやすくなれば、多分野で活用できる情報フォーマットになり、場所や時間に縛られない豊かな未来が実現できる。そんな思いが、スペースリーのサービス設計に繋がっていった。
空間情報が暮らしを変える
こうした空間情報が、私たちの未来の暮らしに大きな変化をもたらすのは明らかだ。森田氏が見据える10年後は、こんな世界だ。
「空間情報が私たちの生活において、ごく当たり前になる。そんな世界を僕たちは目指しています。例えば、VR内覧で物件を見つけた消費者が、その後も360度のVR画像を個人データとして扱えるようになると、今度はそれを参考に部屋のリノベーションや模様替えを検討することもできます」
Getty Images
他にも、学生が教室にいながら工場見学に行くこともできれば、途絶えつつある地域の祭りや職人の技術、また古い建築をアーカイブすることもできる。360度VR画像の活用幅は無限だ。
「私たちは情報伝達の方法自体が変わっていく、大きな変化の只中にいます。普段の生活や職場、教育現場。また、コミュニケーションや購買のプロセスにおいても。空間データの活用が広がるなかで、これまでとは違う当たり前が作られていくのではと、僕もワクワクしながら考えています」
今後、こうした空間データにはあらゆる要素との掛け合わせが起きていく。数年後には、これまで思いもよらなかった分野で使われている、なんて意外な展開も楽しみにしたい。
森田博和(もりた・ひろかず)◎スペースリー代表取締役。東京大学大学院卒業、航空宇宙工学修士(JAXA所属)取得。2005年経済産業省入省、内閣官房宇宙開発戦略本部事務局への出向を含め航空宇宙政策の企画、立案等に携わり、6年間勤務。2013年シカゴ大学大学院にてMBA取得(アントレプレナーシップ・統計学等専攻)後、会社スペースリー創業。
(本稿は「ENILNO」からの転載記事である。)