この買収は、顧客にシームレスなオムニチャネルショッピング体験を提供するというウォルマートの目標を、よりいっそう確かなものにする動きだ。なお、今回の買収条件は開示されていない。
ボルト・システムズのアプリケーションは、店舗レベルにおけるリアルタイムのデータや、実際の施策につながる分析を提供し、商品棚の詳細情報をサプライヤー向けに提供することで、品揃えを最適化する。計画を立て、予測を行うことで、在庫切れを減らすことも目標だ。在庫切れは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック期間中、多くの小売業者が対応に苦慮していた問題だ。
ウォルマートはプレスリリースで、「今回の買収は、顧客の需要予測を改善するためのテクノロジーやイノベーションに対して、継続的に投資を行うというウォルマートの意向を裏付けるものだ」と述べている。「当社は、企業や人材、技術、顧客との取引関係を含め、ボルト・システムズのすべてを取得する」
ウォルマートは近年、テクノロジーに積極的な投資を行ってきたが、この戦略はコロナ禍によってさらに加速されている。同社は複数企業を買収することにより、テクノロジープラットフォームとその能力の再構築を実施中だ。ただし、今回のボルト・システムズの買収は、マーク・ロアがEコマース部門を率いていた時代の派手な買収劇とは一線を画するものだ。
ロアは2016年、自身が創業したJet.comが33億ドルでウォルマートによって買収されたことに伴って、ウォルマートに参加した。その後、次々と企業を買収し、オンライン・アパレルブランドの「モドクロス」をはじめとするオンライン小売企業を傘下に収めた。その後売却されたモドクロスと比べると、2017年に3億1700万ドルで買収されたメンズウェアのオンラインショップ「ボノボス」は良い実績を残している。最近になって立ち上げられた新ブランド「ボノボス・フィールダー」は、ウォルマートのウェブサイトで販売を行なっている。
ウォルマートのEコマース部門最高経営責任者(CEO)を務めていたロアは、在任中の最後の会計年度(2021年1月24日締め)に、同部門の売上高が79%増を記録するのに貢献した。同社のEコマース部門は、実店舗に付随する存在から、アマゾンに次ぐ、米国有数のオンライン小売業者へと成長した。
ウォルマートはまた、自社の店舗網を活用して、店舗引き取りサービスをオンライン販売の切り札としている。これには、同社店舗が、米国の人口の大部分が住む場所やその近隣にあることが優位に働いている。
ウォルマートは他にも、テクノロジーの支援を受けたIRL(in real life)店舗(実店舗)や、未来を見据えて時代を先導する技術の開発を目指すプロジェクト「ストア・ナンバーエイト(Store No8)」など、テクノロジー分野で多くの投資を行っている。例えばストア・ナンバーエイトでは、会話型コマースを試験導入したほか、仮想現実(VR)関連のスタートアップ、スペイシャル&(Spatial&)を立ち上げている。