現在、フィランソロピーの資金は、どのような社会課題の解決につながっているのか。寄付の出し手と、寄付を受け手であり、革新的な手法で「新たな社会モデル」を構築する非営利団体の対談を行っていく。
初回は、村上財団代表理事の村上 玲と、「10代の孤立」という社会課題に取り組み、独自の現金給付、食糧支援についてユキサキチャットというLINEを通して行っている認定NPO法人D×P(ディーピー)理事長の今井紀明の対談からはじめる。
村上 玲(以下、村上):今井さんが理事長を務めるD×Pと私が代表理事を務める村上財団の付き合いは長いですね。2016年の財団設立後間もなくご紹介いただき、19年にはじめて支援させていただきました。当時、私は、三菱商事に在籍していましたが、将来的に財団に関与したいと思っていたこともあり、さまざまな人にお会いしているなかで、一度お会いましたね。
今井紀明(以下、今井):よく話をさせていただくのは最近ですね。コロナ禍でD×Pの支援状況をお伝えする機会をはじめ、いまでは政策提言も含めて「何か一緒にできないか」という話をさせていただいております。村上財団さんには3年程度、継続支援をいただいており、本当にありがとうございます。
村上:前代表理事で、姉の絢が、「働く女性の労働・生活環境のサポート」「未来の日本を創るこどもたちのサポート」をテーマにしていたことから支援させていただきました。
村上財団自体、創設者で父の村上世彰の問題意識から始まりました。父は投資家として、日本の上場企業が抱える内部留保のあり方に取り組んできました。一方で、上場企業の資金循環に関する問題の解決だけでは、日本経済の持続的な成長につながらないという思いも持っていました。寄付文化が根付いていない日本では、社会をよくするために活動している非営利団体に必要な資金が届かないという点です。
企業への取り組みに加え、非営利活動への支援を通じて、誰にでもセーフティネットがあり、どんな人でも必要な支援を受けられ、安心して暮らしている社会環境が必要だという問題意識から財団がはじまっています。
行政のセーフティネットではどうしても抜け落ちてしまう部分があります。現場の知見があり、抜け落ちてしまったところに支援をしている非営利団体にしっかりと資金が回ることで誰でもセーフティネットが受けられる状態になると考えています。
今井:D×Pは、貧困や虐待をはじめ、様々な孤立しがちな若者たちの支援をしていますが、国や行政がどうしてもできていない課題・問題に対して、我々のような非営利団体がどのように動いて支援をしていくか、が重要だと思っています。
D×Pは現在、独自の支援パックを用意しています。現金給付8万円、最大3カ月1万円の現金給付、最大1年間の食糧支援で長期でもサポートできる体制を整え、自立につなげます。最近、行政の生活福祉課から「申請までの手続きで、入金まで2週間かかるため、支援してほしい」という相談がきています。申請する時点で、お金がなかったり、食事を食べられていなかったりする方々がいるためです。
こうした現金給付や食糧支援は僕らが寄付型NPOであり、寄付だからできる事業でもあります。10代の孤立を解消するためのオンライン相談をLINEで行うユキサキチャットは、現在、8500人程度の登録者がいます。コロナ禍ではじめた現金給付支援はこれまでに3700万円、食糧支援は6万5000食を行っています。