ピーター・ドラッカーのいう「知的労働者(Knowledge Workers)」からも大きな影響を受け、知識を基盤とした資本主義を唱える多くの日本の学者の本はすべて読んだという。
「『The Rise of the Creative Class』出版当初は新しい階層なんて『馬鹿げている』『フロリダの妄想だ』という批判もあったが、アメリカの労働人口の3分の1でも、収入では全体の半分、自由裁量的購買力では4分の3と、最大のインパクトを持つクラスは20年たっても消えてなくなりはしなかった。それどころかさらに重要性を増している。ポスト・コロナの経済や働き方もクリエイティブ・クラスの力を促進している」
日本は80年代にすでに工場労働者もナレッジ・エコノミーの一部であることを理解していた、と当時の驚きについて話すフロリダは、その一方で「クリエイティブ・クラスは日本の“会社人間(Company Man)”になりたがることはない」とし、「日本の根強い男性優位社会や外国人労働者の扱いなどもクリエイティブ・クラスの才能が生かせない」、として“調整”が必要と手厳しい。
「リモートワークやハイブリッドワークなど、ポスト・コロナの『新しい働き方』は、アートやファッション業界など、コアのクリエイティブ・クラスは20年前からやっている。彼らが求めているのは、物質的豊かさではなく、チャレンジであり、よい同僚と、自由に働くフレキシビリティであり、指示されたくもない。自著から引用すると『よいプロジェクトをよい同僚とよい場所のよい空間でやりたい』のだ」
社会の歪みを正す「新しい社会契約」
新しい階層の台頭と分断・格差の問題は切り離せない。実際、アメリカでは大都市のクリエイティブ・クラスは階層の分断を深め、ジェントリフィケーションを促進するという批判も少なからずあった。
フロリダは分断を見据え、2012年の改訂版の結論章で新しい社会契約を提案した。国民一人ひとり(サービス業や製造業)のクリエイティブ能力向上、起業支援のための公共投資、クリエイティブな人的資本のための大規模な教育政策や自営業やフリーランサーなどの才能を生かせる積極的な社会的セーフティネットの構築などだ。
「知識ベースの経済があっても、社会インフラが旧態依然のままでは、社会の断絶、分極化はなくならない」。フロリダは、実際にトランプ前大統領などポピュリストが正面攻撃を仕掛けたのこそクリエイティブ・クラスだったとし、「社会が分極化して前世代の社会契約にすら逆行する空位期間にあるアメリカでは、新しい社会契約の実現は次の世代にならざるをえない」と話す。
また、先進国の労働人口の50〜60%を超えるサービスクラス、労働者クラスをクリエイティブ経済に取り込めないと、アメリカのように分断を深めることになると警鐘をならす。
「僕は、より大きな視点での真実は、人々は人生の意味や目的を求めているということだと思う。我々が包括的な社会をつくることができれば、人々はこの創造性を発露させ、燃焼させ、内面の充足に充てることができる。そうでなければ、そのエネルギーは怒りとなり、社会へ向かうことになるだろう」。