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2022.08.16

サイバー攻撃から宇宙実験データを守るには?【伊東せりか宇宙飛行士と考える地球の未来#9】


宇宙のサイバーセキュリティは地上の延長線上


せりか:サイバーセキュリティのスペシャリスト・名和利男さんによると、すでに宇宙業界もサイバー攻撃を受けるケースが出始めているといいます。どんな被害が想定されているのでしょうか?

東さん:地上と宇宙の暮らしが完全に分かれているのであれば話は変わってくるでしょうが、国際宇宙ステーション(ISS)など現代の宇宙の暮らしは地球ありきで運用していますよね。つまり宇宙のサイバーセキュリティと言っても、空を飛んでいる飛行機の先に宇宙ステーションや衛星があるだけで、根本は地上と同じです。特別なことはありませんよ。

ただ、社会インフラの基盤になっている宇宙に関連する技術やサービスがサイバー攻撃を受けると、被害の影響は甚大です。もしも、位置情報を取得するのに利用されているGPSが止まったり、GPSになりすました偽の電波を受信して違う場所に誤誘導させられたりしてしまったら……

せりか:カーナビやスマホの地図アプリが使えなくなってしまい、GPSを頼りに登山をしている人は遭難してしまう恐れもありますね。GPSを利用している公共交通機関も多そうですし、大きなトラブルに発展しそうです。

東さん:実際にGPSがサイバー攻撃を受けて、一部利用できなくなってしまったこともありますよ。

それから、最近は衛星を利用した通信が広がっていますよね。通信衛星も対策をしなければ、乗っ取られてデータを改竄されるようなことも起こり得るかもしれません。公共サービスの破壊は最悪のテロリズムだと言えます。

光通信とセキュリティ


せりか:東さんのお話を聞いて、サイバー攻撃の恐ろしさと対策の重要性がわかってきました。セキュリティレベルの向上に光通信が注目されていると聞いたのですが、光通信はなぜ安全なのでしょうか?

東さん:まず、無線通信は大きく分けると、電波通信と光通信の2つです。電波通信は電波が周囲に拡散しながら進むので、データを傍受されるリスクがあります。一方、光通信で利用する光は直進性が高いので、逆に受信するのが難しいことが課題として挙げられるほど、データが傍受されるリスクが格段に下がります。

この光通信は、ワープスペースが開発中のサービスの要となる技術です。ワープスペースは、地上400〜1000kmの低軌道を周回する人工衛星向け光通信インフラサービス「WarpHub InterSat」の開発を進めています。


(c)ワープスペース

これは、光通信が可能な中継衛星3基を低軌道よりも高度が高い中軌道に打ち上げ、中継衛星を介して、低軌道の衛星から送られてきたデータを地上局に送信する仕組みです。

とはいえ、光通信技術を導入すれば、それだけで安全というわけではありません。先ほどから言っている通り、宇宙は地上の延長線上にありますから、地上のサイバーセキュリティ基盤の構築も、もちろん重要視しています。
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