多様性により組織の能力が高まり、士気や生産性が向上することで会社の業績が改善するという主張だ。しかし専門家は、こうしたビジネス上の利点を強調して多様性の取り組みを正当化することが逆効果になる可能性について警鐘を鳴らしている。
学術誌「パーソナリティーと社会心理学ジャーナル(Journal of Personality and Social Psychology)」に掲載された研究結果では、多様性を企業の利益と結びつけることにより、企業のアピール対象であるはずの少数派の人々の関心を失ってしまう可能性が示された。ビジネス上の利点を強調して多様性を正当化しようとすることで、少数派グループの間でその組織への帰属感への期待が下がり、その組織に加わりたいという気持ちが弱まるのだ。
エール大学とロンドン・ビジネス・スクールのチームが行ったこの研究では、大多数の組織がビジネス上の利点を挙げて多様性の取り組みを正当化していることが判明した。「フォーチュン500」企業のうち404社が、会社のウェブサイトで多様性が重要な理由として、利益や業績への貢献を挙げていた。
研究チームは、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の女性や、黒人の大学生、LGBTQなどの性的少数者らに対し、架空の企業のウェブサイト上に書かれている多様性に関するメッセージを読んでもらった。メッセージは3種類で、一つ目は多様性により業績が改善することを示唆するもの、二つ目は多様性を追求する理由として道徳や公平性を挙げているもの、三つ目は理由について全く説明がないものだった。
ビジネス上の利点を挙げたメッセージを読んだ人々は、その他の二つのメッセージを読んだ人々と比べ、その会社への帰属感を持てないだろうと答え、自分がステレオタイプ(固定観念)に基づいて扱われるのではという懸念を示す傾向にあった。また、会社は自分のことを、自分と同じ集団に属する人と交換可能な存在だと考えるのではないかという懸念も強かった。結果、多様性のビジネス面での利点を挙げる会社に加わりたいと答えた人は少なかった。