「説明なし」が最も良い結果に
少数派が最も好感を抱いたのは、多様性の取り組みを正当化する表現のないメッセージだった。研究を行ったアニータ・ラッタンは企業へのアドバイスとして、理由を説明することなく多様性向上への熱意を示すことを勧めているが、多様性に取り組むべき理由を説明しないことにためらうリーダーは多いという。
「信頼や誠実さを重んじることを正当化する必要がないならば、なぜ多様性を正当化する必要があると感じるのか? 平等に扱われていない集団を評価することが人々から疑問視されると思うのはなぜか?」とラッタンは問うている。
多様性だけでは業績向上は望めない
さらに一部の学者は、多様性と利益が直接関係しているという主張自体について疑問を投げかけている。ハーバード・ビジネス・スクールのロビン・イーリー教授とデービッド・トマス名誉教授は、女性や有色人種の人を管理職に登用しただけでは業績の改善は見込めないと指摘している。重要なのは、多様性をどのように生かすかだ。適切な措置なくしては、労働力に多様性を持たせたところで、逆に緊張や争いが増えてしまう。
またトロント大学のサラ・カプラン教授は、ビジネス上の利点を理由にすることの問題点として、少数派を増やすことで業績が上がるという非現実的な期待が生まれる恐れがあると指摘している。
例えば、こうした利点を論じる上でよく紹介されるクレディ・スイスの調査結果では、女性の上級管理職の割合が15%以上の企業では、10%未満の企業よりも利益性が50%以上高いとされた。またマッキンゼーの調査では、男女平等を推進することで世界市場は約120億ドル(約1兆6000億円)成長するとされる。こうした大きな数字は、多様性をめぐる高い期待を生んでしまう。
だがこうした大きな目標を達成できないと多様性施策に対する失望につながり、減益になった場合にはさらに印象が悪くなる。多様性のビジネス上の利点に賛同している従業員は、不況下になると多様性の取り組みを不要で役に立たないものと考えるかもしれない。