信頼と共感が「群衆」を動かす
クラウドファンディングは、個人や組織がインターネットを通じて人々から少額ずつ資金を調達する手法だ。ゆえに、私たちにはこんな思い込みがある。
「SNSなどで情報発信する力が長けた人ほど、クラウドファンディングで資金調達に成功する可能性が高い」
確かに、情報拡散力は成功要因のひとつになりうる。だが、それ以上に重要なのは「信頼」と「共感」だ。このことは、これまでインターネットの世界とは縁遠かった人や組織が、クラウドファンディングで数千万円規模の資金を集めるケースからも見て取れる。
例えば、20年12月にCAMPFIREでプロジェクトを実施した慶應義塾大学の学食・山やま食しょく。3代目代表の谷村忠雄は67年間、「学生にとって第二の家族でありたい」と薄利多売で食事を提供し続けてきた。だが、コロナ禍で売り上げが激減し、山食は経営難に陥る。銀行から借り入れを行うも、このままでは半年後に資金がショートする―。そんな矢先に孫が教えてくれたのが、クラウドファンディングの存在だった。
インターネットを使ったことはほとんどない。周囲のアドバイスを受けながらプロジェクトを立ち上げた。すると、卒業生を中心に協調の輪が生まれ、感謝が支援の連鎖をもたらし、わずか1日で当初の目標金額500万円を達成。1カ月半で4109人から4300万円以上を集めた。
こうした傾向について、CAMPFIRE取締役Co-CEOの中島真は、「小さな商圏で、長い時間をかけてコミュニティを築いてきた飲食店や団体が初めてオンライン上に登場し、クラウドファンディングが一気に成立したのはコロナ禍での大きな変化だった」と振り返る。
冒頭で紹介した抱樸も、北九州市を拠点に30年以上にわたって生活困窮者支援の活動を続けてきたことが、1万人を超える人たちから1億円以上の寄付金を集めることにつながった。
「地道に信頼を積み重ねてきた団体さんだからこそ、人々は支援することに納得感を抱く。そして『いまこそ自分たちがお金を託すべきだ』と考えた人たちがSNS上で情報を拡散し、プロジェクトが盛り上がりを見せた」(READYFORクラウドファンディング事業部キュレーター部部長の小谷菜美)
ソーシャル・キャピタルがもつ力
クラウドファンディングを考えるうえで重要なキーワードのひとつがソーシャル・キャピタル(社会関係資本)だ。
一般的に、ソーシャル・キャピタルとは人との関係やつながりに内在する資産を指す。社会学者のロバート・パットナムは著書『孤独なボウリング』で、「ソーシャル・キャピタルは、市民が集団的な問題をより容易に解決することを可能にする」と述べている。
筆者は21年に一般の人々を対象に調査を行い、人々がもつソーシャル・キャピタルとクラウドファンディングの支援意向との関係性を定量分析した。
OECD(経済協力開発機構)が提案するソーシャル・キャピタルの4領域(個人的ネットワーク、社会的ネットワーク・サポート、市民参加、信頼と協調の規範)と、クラウドファンディングを通じた人々の飲食店の支援意向との関係性を分析した結果、「市民参加」(集団生活に積極的に貢献すると考えられる行動や言動、およびこれらの市民的ネットワーク自体の特性)と「信頼と協調の規範」(社会の一員としての行動を形成する認知的要素)という集団・公的領域のソーシャル・キャピタルが支援意向に有意に正の影響を与えるとの結果が出た。