ビジネス

2022.07.28 16:35

意志ある資金が群衆を動かす。共感と共存を生むインパクト


もちろん、支援者に対するリターン(返礼品)の内容やカテゴリ、実施期間などによって状況は異なる。だが、クラウドファンディングにおいて社会との連帯感や共同体感覚は重要な要素であり、社会的インパクトの原動力のひとつだと考えられる。

そして、クラウドファンディングのプロジェクトは時に「成功体験」という副産物ももたらす。MOTION GALLERY代表で、20年4〜5月に実施し約3万人から3億円以上を集めた「ミニシアター・エイド基金」プロジェクトの発起人のひとりでもある大高健志はこう指摘する。

「お金を投下するのはひとつのクリエイティブな行為であり、投票行為である。共感し、価値を感じられる物事に少しお金を振り分けるだけで、自分がいいと思う方向に社会が動いていく。プロジェクトへの参加を通じて、社会を動かすための選択肢があると実感してもらえる」

大切な店や場所が存続する。命が守られる。新たなモノや場所やサービスが生まれる。世論が動き、時には政治も動く。こうした体験を通じて人は気づく。自分は社会に貢献しうる存在だったのだ、と。そして、その気づきは社会を変える前向きなエネルギーを醸成していく。

選択の機会と場所が必要だ


コロナ禍を経て社会的認知度が高まったクラウドファンディングだが、ここにきてプラットフォームの「個性」がより鮮明になってきた。

NPOや研究・医療領域に強く、企業や自治体との連携にも積極的なREADYFOR。あえてジャンルを特定せず、オールラウンド型のCAMPFIRE。アート領域を中心に、クリエイティブなプロジェクトを扱うMOTION GALLERY。他方、Makuakeは自社のサービスをクラウドファンディングではなく「応援購入サービス」と表現し、商品やアイデアのデビューにフォーカスした市場の構築に注力している。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)グループのワンモアが運営するGREENFUNDINGも、プロジェクトの大半がガジェットなどの製品だ。

EC系のプロジェクトはクラウドファンディングにふさわしいのか。クラウドファンディングは社会貢献の文脈で用いられるべきなのか。クラウドファンディングの定義を巡っては、さまざまな論議が巻き起こっているのも事実だ。しかし、絶対的な解を見いだす必要はないと筆者は考える。なぜなら、クラウドファンディングが多様な概念を内包してこそ、多様な社会的インパクトが生まれる可能性が担保されるからだ。

何を信頼し、何に共感するかは人によって異なる。だからこそ、自分の価値観に照らし合わせてお金の使い道を選択できる場所と機会があることが重要だ。そして、選択し行動することが他者とのつながりや自分自身の輪郭を浮かび上がらせる。それもまた、社会を構成する個人にもたらされるインパクトのひとつなのだ。


瀬戸久美子◎Forbes JAPANコントリビューティング・エディター。社会課題の解決に取り組む経営者や起業家を取材するほか、デジタル社会とメディアの定量・定性分析や、探究学習プログラムの開発・ファシリテーターを手がける。東京都市大学特任教授。

文=瀬戸久美子

この記事は 「Forbes JAPAN No.097 2022年9月号(2022/7/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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