中学生が東工大教授に質問 「たし算とかけ算の決定的な違い」は何なのか?

東京工業大学理学院数学系教授 加藤文元氏と、渋谷教育学園渋谷中学校取材班


たし算では数に「個性がない」


加藤教授:その反面、たとえばたし算的に見ると、すべての数が1から作られてしまうので、数の個性があまりないんです。どんな数も、「つまるところ同じ」「元をただせば1から作られている」。2と3の違いはたかだか1が足される回数、くらいのことです。

たし算的にはどの自然数も個性がない。区別する理由が釈然としない。たとえば私は17という数は好きだけど、19はそれほど好きではない、と言ってもあまり意味がわかりませんよね? そういうことです。



だけど、かけ算的にはなにしろ無限個のベースから作られているので、バラエティー豊かで、そこには個性がある。そして、個性を伴うほうが数を理解しやすいという局面は多々あります。

たとえば、12と13という数を考えたとき、たし算的にはさしたる違いはない。たかだか「1違う」だけです。だが、かけ算的に見ればその違いは歴然です。13は素数ですが、12は2と3という素因子を持っている。しかも2という素因子は重複度2であらわれる。2は2回、3は1回、それ以外の素因数はない。



かけ算的な世界の方が、数の個性(「遺伝子」と説明する人もいますが)を詳細に書き出すことができる。だから、一概にかけ算が難しいとはいいづらい。生身の構造でいうと、かけ算は無限生成、たし算は一元生成だが、無限生成の分だけ、個性豊かな数の顔が見えてくるので、ものごとを簡単にするのです。

たし算とかけ算の関係を調べることは、数学の究極の目標


取材班:先生が書かれた『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃 』(KADOKAWA 、2019年刊)に、世界の多くの数学者が「理解することをあきらめた」ともいわれる「たし算とかけ算を分離する」ことは、数学者にとって「トンデモ」にも感じられる、といった意味のことが書かれていますが、それはどういうことか具体的に説明していただけますか?

加藤教授:たし算とかけ算の間の関係を調べることは、数学の究極の目標だと思います。たし算とかけ算の間の関係を完全に理解した人は、歴史上の数学者でおそらく1人もいないと思います。

たとえば、1、2、3、4、5、6、7、8、9と1つずつ増えていくとすると、「1」は、たし算構造においてもかけ算構造においても(その意味合いは異なっていますが)基本的な数です。「2」は素数。「3」も素数。素数に1個足して「4」になると、2の遺伝子が2個あらわれる。5は素数である、6は2の遺伝子と3の遺伝子が1個ずつあらわれる「7」は素数である。「8」は2の遺伝子が3個あらわれる。「9」は3の遺伝子が2個あらわれる。


なにか規則性が見えてくるのか? と期待しながら続けていくが──

ここまででは少なくとも、素数と素数でない数のあらわれ方の規則性がピンとこない。100か1000まで続けていけば、規則性が見えてくるのか? と期待しながら続けていく。

素数を100まで暗記している人はいますか?

取材班:……言えると思います。



加藤教授:そうですか、実は私も暗記していると思っていたら、最近間違えました(一同笑)。

ここで適当に、例えば61から考えてみると、61は素数、62は2かける31、63は3の2乗かける7、64は2の6乗ですね。65は5かける13。素数があらわれるタイミングは、規則を予言するのが難しいのみならず、素数でなくても、そこに現れる素因子の個数などにも規則性がなさそうです。

5桁、6桁と増えていっても、素因数分解したとき、「遺伝子」が何個あらわれるのかには、なんの規則性もないのです。

ちなみに、この素因数分解の調査はコンピューターを使って簡単にできるので、数に関しての一番楽しい実験だと僕は思います。
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文=石井節子 撮影=帆足宗洋(板書と加藤氏プロフィール写真以外)

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