ビジネス

2022.07.23

投資銀行からスタートアップに転職。CFOが大事にする意思決定の哲学

ユニファ取締役CFO 星 直人(左)DX JAPAN代表 植野大輔(右)


意思決定をした後、やり抜くことが重要



植野:外資の投資銀行から、まるで別世界なユニファというスタートアップに行こうと思ったのは?

星:直接的なきっかけは娘が生まれたことでした。すべてが極端でいきなり変わっちゃう、みたいな。

植野:毎回のギアチェンジがすごいですね。

星:娘に誇れる仕事は何だろうと。アドバイザーの仕事も魅力的でしたが、最終的な意思決定を行うのはあくまでクライアントという観点で、もどかしさを感じたことも事実です。自分が意思決定をするプレイヤー側に立って、社会に直接的なインパクトを与えるような仕事をしたいと思い始めたんですね。

植野:とはいえ、転職にあたっては自身のキャリアのことも考えたでしょう?

星:さまざまなオファーをいただいたうえで真剣に検討しました。「人生100年時代」と言われるようになった時代背景を加味すると、引き出しの多さと深さが付加価値となり、経験の幅や多角的な視野を身につけることがキャリア上も大事だと思ったんです。

海外ではサイエンスと経済学を修めたダブルメジャーの人が活躍しているように、全然違う触れ幅のエッジを2つもっている人はやはり強いです。自分はアドバイザーとして大きな会社にいたので、その真逆であるプレイヤーとして小さな会社に行ったら、まるで違う引き出しがもてると思いました。

植野:星さんは、ユニファのビジネスモデルを超えた、もう1つ高い抽象度の視座をもっているように思えます。ユニファによる保育業界のDXの達成のみを目指しているのではなく、ユニファがひとつの先例となって、その先に「スタートアップがテクノロジーによって社会課題を解決する未来」という、大きな世界観をもたれている。

星:まさに私が目指しているのはそこです。当然、保育者さんや保育関係者、親御さんたちが内包されたかたちですが、そこだけで止まるストーリーにしないことが大切だと思います。自分たちの会社や属する業界さえよくなればいいのではなくて、日本社会全体がよくなっていくことを考えるのが私たちスタートアップの目指すべきことだととらえています。

植野:いまの環境で、これは自分自身にとってチャレンジだなと思うことはありますか?

星:やはり意思決定ですね。外資系投資銀行の場合はファーストクラスのサービスをしているので基本的には絶対に失敗できない。だから、すべての情報を並べて詳細に分析します。いまはスタートアップという特性上、必要な情報がテーブルに完全にそろうことがほぼありません。

小さなことや大きなことも含めて常にいろんなところで何かが起こっている。一種、暗闇のなかで意思決定しなくてはいけない瞬間が多々ありますが、リスクだけではなく「リスクを取らないことのリスク」を意識することも含めて、頭を切り替えました。

植野:自分に足りない部分はどう埋めるんですか?

星:いろんな人にお話を聞いて勉強し続けます。多くの方に頼らせていただきますが、五常・アンド・カンパニーの堅田さん(※3)にはよく相談しますね。


(※3)堅田航平 1979年、東京都生まれ。モルガン・スタンレー証券などを経て、2008年にライフネット生命保険へ参画、13年同社執行役員CFO。14年からスマートニュース執行役員(財務担当)。19年からマイクロファイナンスを手がけるスタートアップ、五常・アンド・カンパニーのCFO。
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文=神吉弘邦 写真=有高唯之

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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