植野:CFOはともすると、予算権限によって会社の全領域に影響力をもてます。ほかにもCxOがいるなかで、役割分担をどうしていますか?
星:ファイナンスが自分の責任領域ですが、自社の企業価値を最大化できるボールを拾えるのであれば、積極的に取りに行くスタンスです。そのうえで、CEOとの関係性が重要です。周りはどうしても反対意見を言いにくいですが、私はCEOに対しても、ノーのときは、きっぱりノーと言う役割を意識します。あくまでロジックを重視して、建設的に協議するのは大前提ですが。
植野:CEOとちゃんと論理的、建設的な議論できるというのは、すごく大きいですね。
星:あとは当然ながら、人と人の相性も大事な要素です。自分にとっては、「何を」「誰と」やるのかは両面とも肝心です。この会社に入る前には、土岐(泰之CEO)と1年ほど話を重ねました。世の中には「CFOは財務やIR領域のみに集中してほしい」という会社もあれば、CEOとCFOが両輪となって、お互いに補完する会社もある。彼は後者のタイプを求めていて、私もそんな環境へ行きたかったんですね。
外資系の投資銀行で得た学び
植野:星さんからは、ぶれない軸の強さのようなものを感じますが、それは昔からの性格ですか?
星:ベースはありつつも、どちらかというと職業人として出来上がった性格だと思います。私は福島の片田舎出身で、小中学校のサッカーチームではキャプテンでした。いつも県大会の決勝くらいまで残る強豪でしたが、相手チームのエースが日本代表だったんですね。試合を何度やっても勝てなかった。いくら努力しても越えられない壁があると幼少期に感じたんです。
そんなに裕福な家庭ではなかったなか、愛する両親にどうにか孝行したかったけど、きっとサッカー選手になれない。勉強なら努力すれば何とかなると思って高校からサッカーはやめて、通学に片道2時間近くかかる郡山の進学校に行きました。
植野:大学は早稲田の政経ですね。僕も同じ出身なのでわかりますが、カオスな環境でしょう?
星:見事に語学以外の授業はほとんど出なかったですね(笑)。音楽が好きで、レコードに夢中でした。長期の休みはバックパッカーになり、東南アジアやヨーロッパなどを数カ月放浪しました。単位だけはスムーズに取れたけれど、もう日本ではいつの間にか就職活動の時期は終わっていて。
植野:それで大学院に?
星:さすがにニートだと、親孝行したいはずの親が泣くなと思って。大学院の入学が決まったタイミングで、ずっと行きたかったインドのガンジス川にたどり着いて、沐浴をしながら「人生は1回しかない。自分が本当に好きなことをやって生きよう」と決めました。そこからモードを変えて、就職活動してモルガン・スタンレーに入ったという流れですね。