ブラックやゼコフのような専門家は、労働者たちは船に飛び乗ったり、今の場所に留まったりの決断をする前に、自分自身と個々の仕事の状況をじっくり考える必要があると信じている。ゼコフは「ビヨンセの意図自体は良いものですが、彼女は問題の根本的な原因を見誤っているようです」という。「魂が打ち砕かれるような(Soul-breaking)仕事は確かに存在します。けれど私たちは、転職に夢を見るのではなく、労働者を面白みのない仕事から解放し、自分の仕事にワクワクできるような方法を見つけることを目指さなければなりません」
さらにゼコフは2009年の不況以降、低金利に後押しされ、雇用の増加、賃金の上昇、福利厚生の充実といった好環境を従業員たちが享受してきたことを指摘した。金利の上昇にともない、利益と効率性が重視されるようになった。売上高成長の代わりにEBITDA(金利、税金、償却前利益)重視の市場となった。このことは雇用の減少、賃金の停滞、福利厚生のカットにつながる可能性が高い。基本的に、従業員市場から雇用者市場へと変化しているのだ。
ゼコフは「新しい趣味、仕事、会社のいずれを始めるにしても、そうした変化を前の職場や役職に対する怒りや憎しみ、悪感情から始めてはなりません」という。「ゼロから何かを生み出すには、大変な努力と献身が必要ですし、その多くは通常の9時から5時までの労働時間を超えるものになります。血と汗と涙と、そして不滅の情熱が必要なのです。力は、へこたれない根性、感情的知性、規律を駆使して、どんな環境、どんな労働条件でも成功できる能力から生まれます。中国のことわざにあるように『戦場の庭師より、庭園の戦士になるべし』ということなのです」(訳注:このことわざの一般的な解釈としては、「庭園の戦士」とは平和を愛し大切なものを守るためならどんなこともする人のこと、また「戦場の庭師」とは志はあってもスキルが追いつかず役にたたない人のこと)。
労働者の燃え尽き症候群はどこにでもみられるが、それは大富豪のビヨンセが叫んでも、世界一の富豪が鉄拳制裁で脅しても、消えることはないだろう。「雇用主は、従業員の負担を真に軽減するような決断をする必要があります」とゼコフは結論づけた。「そして労働者は自らのキャリアに責任を持ち、問題について声を上げる必要があります。より豊かな未来が常にあるとは限らないのですから」