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2022.07.19

ビヨンセとイーロン・マスクは労働者に間違ったメッセージを送っている

Getty Images

ビヨンセの新曲は、労働者に間違ったメッセージを送っているという人がいる。

Thoughtful Automation(ソウトフル・オートメーション)のCEOで共同創業者であるAlex Zekoff(アレックス・ゼコフ)は「ビヨンセの『Break my Soul』の歌詞は、労働者が今聞くべき内容としては的外れです」という。「オーディエンスに『release ya anger, release ya mind, release ya job, release the time(怒りを解放し、心を解放し、仕事を辞めて、時間を解き放とう)』と訴える歌詞は、現在のチャンスよりももっと良いチャンスがこの先に待っている、という考えが前提になっているのです」とゼコフはいう。「この先不況になると予測するリーダーやエコノミストが多い中、労働者に仕事を辞めるようけしかけるのは、的外れで今にもはじけそうなバブルを生み出すようなものです」

ビヨンセの歌詞とは逆に、テスラのCEOであるイーロン・マスクは、最近、社内の全員に最低でも週40時間以上のオフィス勤務を義務づけると発表した。マスクは「明確にいえば、会社はリモートの疑似オフィスではだめで、実際に同僚がいる場所でなければならない」と語る。そして「もし出社しなければ、辞めたとみなす」とまで発言している。

グローバルな人材流動化を専門とするHRテック企業Topiaの最高戦略責任者であるSteve Black(スティーブ・ブラック)は、世界一の富豪の足取りも乱れていると指摘する。ブラックは「『完全出社主義』は、他社が真似るには危険な戦略です。イーロン・マスクが社員にフルタイムでオフィスに戻ることを義務づけることは危うい人材戦略なのです、なぜならそれによって多くの社員がより柔軟な職場を求めて流出する可能性があるからです」という。

「私たちが最近行ったAdapt(アダプト)の調査では、フルタイムでオフィスに戻ることを強制された場合には64%が新しい仕事を探す可能性が高いと答えています。そして回答者の46%が社員の福利厚生を重視する仕事に魅力を感じ、42%が好きな時に自宅で仕事ができることを望んでいることがわかりました。マスクは、すべての柔軟性を奪い、最低週40時間の労働を強制することで、この最後の2つの観点に真っ向から逆らっているのです」

ビヨンセの歌詞に関して、深読みしすぎだ、ただの音楽じゃないかという人もいるかもしれない。あるいは、マスクには自分が適切と考える方法でビジネスを運営する権利があるという人もいるだろう。しかし、ビヨンセもマスクも一般的な企業のリーダーよりも大きなプラットフォームを持ち、それには大きな責任がともなうこと、そしてこの場合、2人とも間違ったメッセージを送っているという見解が、多くの専門家同士では共有されている。帝国を築いた人は、自分に力があるからこそ、受け入れられにくい決断をしやすいのだ。しかし、一般の労働者にはそのような力はない。
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翻訳=酒匂寛

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