銃による犠牲者を象徴する3044の空席。規制推進を訴える動画「THE LOST CLASS」

Change The Ref - The Lost Class (case study)より

米国の銃による死者の人数は、我々の想像をはるかに超えている。日本でもつい最近、元首相を狙った痛ましい事件があったばかりだが、しかし数字を見れば、日米の差は明らかだ。

CNNは、7月8日、昨年1年間で銃によって命を奪われたのは、日本では1人だったのに対し、米国では約4万5000人にものぼると繰り返し紹介した。これについては、日本でも共同通信が伝えている。

今回紹介する動画は、その銃規制を訴える「THE LOST CLASS」と名付けられたもので、世界の広告界やマーケティング界で飛びぬけて大きな影響力を持つカンヌライオンズ2022(6月下旬に開催されたばかり)のフィルム部門で金賞(ゴールド)を受賞した。

架空の高校で計画されたスピーチ


動画を制作したのは、銃規制推進団体である「Change the Ref.」だ。この団体は、銃購入時の身元確認の強化を訴えている。

しかしChange the Ref.には、テレビCMや新聞広告を打つような資金は無かった。そうしている間にも、毎月毎週毎日のように銃による殺傷事件は起きていた。座して待つわけにはいかない。そこで彼らは、身元確認強化の請願への署名を求める動画を制作して、インターネット上で流すことにしたのだ。

しかし、もちろんその動画は、見る人のエモーションに訴える強烈なものであり、またメディアからも注目される内容である必要があった。

米国で一向に銃規制が進まない大きな理由の1つに、NRA(全米ライフル協会)に代表される「銃を保持する権利の保護」を訴える勢力が一定の力を持っていることが挙げられる。彼らの主張を象徴するのが、武器を保持する権利の保護を謳った「合衆国憲法修正第2条」だという。

Change the Ref.の計画は、手が込んでいた。ネット上に、この合衆国憲法修正第2条の起草者である第4代米国大統領ジェームス・マディソンの名を冠した架空の高校を設置して、その高校の卒業式でスピーチをしてくれと、NRAの元会長デイビッド・キーン氏に依頼した。


Change The Ref - The Lost Class(case study)
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文=佐藤達郎

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