デジタルファッションが拡張するアイデンティティー

XTENDED iDENTITYデザインのフェイスマスクを着用したAwwのバーチャルヒューマン「imma」


バーチャルヒューマンの可能性


最後に、デジタルファッションの可能性を引き出すバーチャルヒューマンの存在についても触れてみたい。今回のギャラリー展示でもモデルとして登場しているimmaを手がけるAww守屋氏に今後バーチャルヒューマンが活躍する場所はどこか? 聞いてみたところ「バーチャルヒューマンの価値はまだまだ未知数」である、と回答があった。

その理由は、今後immaはじめとするAwwのバーチャルヒューマンによるリアルタイム配信を予定しているそうで、今まで以上にバーチャルヒューマンと密なコミュニケーションが可能になるそうだ。より人間的な価値を発揮することで、モデルやアナウンサーだけではないバーチャルヒューマンの魅力や活躍シーンが増えていきそうである。

ある企業の産業医がメンタル問題にはリアルな人間よりもアバターで話をしたほうが心を開いてくれる、という話を思い出した。カウンセラーとしてもバーチャルヒューマンは活躍してくれそうである。

ファッション特化型DAO『RED.DAO』のThomas Yi氏にもバーチャルヒューマンの可能性を質問してみたところ以下の回答があった。

「Awwのimmaのようなバーチャルヒューマンは、物理世界とデジタル世界の境界を曖昧にしています。immaは、Awwのチームによってペルソナが形成されたバーチャル・オンリー・ヒューマンで、彼女のインスタグラムの投稿は、本当にバーチャルなのかと思うほど、かなりハイパーリアルに仕上がっています。私にとって、immaが象徴するのは、拡大し続けるデジタル浸食の世界における、私たちのヴァーチャル・アイデンティティのひとつの可能性です」

バーチャルの世界でアイデンティティを持つとはどういうことなのか。現実の世界とまったく同じ自分であるのか、それとも一点ではなく多次元的に表現されるのか?

「物理的な世界とは異なり、デジタルの世界では一人の人間以上の存在になることができるのがユニークな点です。あなたが望めば複数の人格を有することができます。そもそも、人間はさまざまな感情、アイデア、欲望、そして自己表現の方法を持ち、複雑で重層的です。将来、バーチャルヒューマンは、immaのような存在、既知の個人(自分自身の直接の表現)、匿名の個人、あるいはAIなど、さまざまな表現で現れるのかもしれません」

「身体的な外見に加えて、私たちのアイデンティティは、自分達が身につけているものにより表現されます。ファッションは常に、不当な権力に立ち向かうため、情熱や関心を示すため、あるいは単にその日の気分を反映するためなど、人々が自分自身を表現するために選択する方法です。だからこそ、私たちは、社会の中で共鳴するストーリーやコアバリューを伝えてくれると信じている特定のブランドと自らを同一視しているのです。ですから、バーチャルとリアルの人間が共存する時代に入ると、より選択肢が増え、現実世界の制限にもはや縛られることなく、我々人間はより自分らしさを発揮することができるようになります」



デジタルファッションはファッションの領域を超え、デジタルアイデンティティー構築を助ける。デジタルファッション、バーチャルヒューマンなどを「リアルに存在しないから価値がない」と考えていると次なる大きな波に乗り遅れてしまいそうであることを感じたニューヨークでの取材であった。

文=西村真里子

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