由緒正しい老舗旅館の再生も
もうひとつの要素は、自社による開発。現在は瀬戸田地区で、名門老舗旅館・西山別館の再生に取り組んでいる。
この別館は、1000坪を超える広大な敷地を持ち、客室はわずか10室余りという贅沢な造り。小説家・林芙美子をはじめ多くの文豪に愛され、天皇陛下が皇太子時代に宿泊したこともあるという、由緒正しい旅館だ。しかし、コロナ禍で観光客が激減。2021年末から休館を余儀なくされた。
そこで、カンボジアのフレンチレストランで腕を振るい、フランス政府から「農事功労賞」を与えられた料理人を招聘。世界中を旅した旅行客にも受け入れられるよう、地元・瀬戸内の食材をふんだんに用いた、フレンチベースの創作料理を開発している。
さらに、瀬戸内の島々や神社仏閣を巡るアクティビティも、地元の関係者との交渉を重ねながら開発中だ。
旅館のリニューアルオープンは2023年3月を予定している。
「瀬戸内エリア」への帰属意識を高める
最後の要素は、観光事業者や自治体のコンサルティング。ブランド戦略や観光戦略を立案し、実行までを支援している。
観光地の開発と併せて重要になってくるのが、瀬戸内というエリア自体の認知拡大だ。日本では、街ごとのPRは一般的だが、エリア単位でのPRはほとんど例がない。観光事業者も、県や市への帰属意識はあっても、「瀬戸内」というエリアへの帰属意識は希薄だった。
そこで2017年に発足させたのが、メンバーシップ制度「せとうちDMOメンバーズ」だ。法人・個人問わず、瀬戸内観光に関連するすべての人が入会でき、地域全体でのビジネスチャンスの拡大を目指している。
会員は、瀬戸内の歴史や文化を学ぶセミナー「瀬戸内アカデミー」を受講したり、訪日外国人対応のための通訳専用のコールセンターや、メール翻訳サービスを利用したりすることができる。
法人の会費は、企業規模に応じて月額3300〜5500円。会員組織の拡大を最優先とするため、あえて安価に設定しているという。その甲斐もあって、会員数は約1000社に達している。
「2023年には、広島でG7サミットが開催されることが決定しています。コロナ禍で厳しい時期が長かったですが、これを機に『瀬戸内』にさらに世界中の注目が集まることを期待しています」(井坂社長)
コロナ禍の逆風を乗り越え、世界中から観光客が集まる日が待ち遠しい。