「サブスクエコノミー」の到来をいち早く予見し、いくつもの企業を成功に導いてきたツォは、「サブスクモデルは日本のモノづくりで可能性がある」という。ツォとZuora CROのロビー・トラウブにその理由を聞いた。
SaaSは不況に強い
──アメリカや日本の株式市場では、SaaS関連企業の株価が下落しています。この状況をどのように見ていますか。
ティエン・ツォ(以下、ツォ):2001年のITバブル崩壊の時も、2008年のリーマンショックの時も、テック株は下落しました。今回はSaaSそのものへの失望というより、ウクライナ戦争やインフレ抑圧などマクロ的な力が働いたと見ています。株価もじきに落ち着きを取り戻すでしょう。
2001年と2008年の時と違うのは、SaaSがリカーリングレベニュー(定期収益)を持っていることです。コロナ禍のような状況下でも、安定した収益があるSaaSは簡単には経営が悪化しませんでした。これは投資家からも評価されていて、例えば、アメリカのサブスクモデルのCLEAR(クリア)という旅行会社は、コロナ禍でもユーザーのニーズに合わせたサービス提供に徹することで顧客数を維持できたため2021年にIPOを果たすことができました。
状況に合わせて契約プランをアジャイルに変えられるリカーリングレベニューモデルは、変化に対して耐性があります。サブスクはもはや揺るぎないビジネスモデルとして地位を確立できていると、自信を持っていいのではないでしょうか。
──SaaSで成功している企業の特徴とは何か、教えていただけますか。
ツォ:顧客と、デジタル上での関係を築くのがとても上手いことが挙げられます。米国のFender(フェンダー)というエレキギターの老舗メーカーは、ギターを買ってくれた顧客のほとんどが1年以内に弾くのを止めてしまうことに頭を悩ませていました。それは、初心者にとってギターは弾きこなすのが難しく、ギブアップする人が多かったからです。
そこでFenderの経営者らは、定額利用のオンライン教育動画サービスを始めることにしました。顧客が何でつまずいているのか、どんな使い方をしているかデータを集めることに注力したのです。そのおかげで、Fenderはギブアップ率を10%削減させ、売り上げを倍増させました。顧客を生涯にわたるギターの「愛好家」として育てることで、ユーザーとの関係性を築き、定着化に成功したわけです。