──ゲイツは、フィランソロピーのパートナーとしてメリンダとどうやって関係を維持していますか?
ゲイツ:子育てのほかに、やりがいのある深い経験を共有するのはとても楽しいことです。一緒に各地をめぐることもできますし、別々に各地をめぐり、帰宅して家庭で話をすることも。
また、子どもたちをアフリカに連れていき、現地の状況を見せることもできました。うちの子どもたちは、私たちが財産を彼らのために残さず、寄付することの意味を聞いてくるんです。
──何と答えますか?
ゲイツ:君たちは非常に幸運だと答えます。私たちの財産は君たちをだめにするだろう、と。私自身、大金を渡されていたら、到底あそこまで勤勉にも意欲的にもならなかったでしょう。周囲の態度も、自分の考え方も変わってしまいますから。非常に難しかったでしょうね。
──モスコヴィッツの両親の教育方針はどのように影響してきましたか?
モスコヴィッツ:影響は間違いなく受けていますが、僕にとって大きかったのは、富を短期間で生み出し、「では、この富をどうするべきか」という思考実験を経験したことでした。すぐに、自分はこの富を世界のために預かっているんだという結論にたどり着きましたから。
──自分の財産だと感じないということですか?
モスコヴィッツ:そういうことだと思います。とはいえ、手にしてからまだあまり時間がたっていませんから、ひょっとすると10年後には考えが変わっているかもしれません。
大半の人にとって、富はゆっくり蓄積されるものなので、どこかの時点で「よし、少し財産が増えたから生活水準を引き上げよう」と考えることになります。
僕の場合、寮暮らしをしていたところから10億ドルの資産を保有することになりました。そこで、まずは今後の自分の生活水準というものを選び、その後で残りの資産をどうするか考えるべきだと判断したんです。結局、それでも相当な額が残ることになりました。
──モスコヴィッツはフィランソロピーの効果測定に関心があるそうですね。
モスコヴィッツ:フィランソロピーは自己満足になっているところが多分にあります。有意義な活動に取り組んでいるのでそれで十分だと思っているのです。たとえ結果が伴っていなくても。ですが、それでは無駄があり、非効率的です。より優れた事業が締め出されてしまいます。そこで僕らは、特定の問題に対して最善のアプローチをしている団体を教えてくれる機構を探しました。ところが、そういった組織はあまりないことがわかりました。GiveWell.org(ギブウェル)という、慈善団体の評価に取り組んでいるところがあり、カリがそこの理事になりました。
──ゲイツは、金額に見合う成果やどの程度のリスクや失敗を許容するのかといった考えに変化はありましたか?
ゲイツ:そもそも、資本主義主導の状況下でも、リターンが大きくなる確率はさほど高くありません。フェイスブック(現・メタ)やグーグルのような大きなリターンが得られるケースは誰でも知っていますが、この2社の創業後数カ月以内に設立されていながら、永遠に無名であり続ける企業も100社はあるでしょう。
モスコヴィッツ:成功企業でも、行き詰まった事業機会はたくさんありました。
ゲイツ:そうです。彼らの事業も成功率が100%ではない。重要なのは、成功すれば非常に大きな効果を上げる事業を選ぶことです。例えばワクチン開発もそうです。インターネットによる教育の見直しも。気候変動に対応した新しい種子の開発も。それに、驚くべきことに、こうした分野への投資は不足しがちです。
モスコヴィッツ:僕は多くの人から、本当に慎重に2つか3つのフィランソロピーを選んで取り組むべきだという素晴らしい助言を受けました。どの事業も多額の投資を意味するため、確実に成功させることを考えるべきだ、と。実は、その発想は正しくありません。僕らの場合はそうではなく、100の大きな事業を支援し、そのうちの2つか3つが成功すれば素晴らしいと考えるべきなのです。僕らよりも桁違いに資金が少ないフィランソロピストには、そのようなリスクを取ることはできませんから。