新型コロナ感染のみの患者では、感染の急性期にSタンパク質(スパイクタンパク質)は検出されなかった。この結果は、ロングコビッドのバイオマーカーとしてのSタンパク質の可能性を示すものだ。これらの知見は、より大規模な研究で再現されれば、ロングコビッドの研究および治療を大きく改善する可能性がある。
ロングコビッドとウイルスリザーバーの可能性
興味深いことに、スワンクらはロングコビッド患者コホートのわずか20%で遊離型S1を検出した。このようにS1が検出されないのに、Sタンパク質が血清中を循環しているのは珍しいことだ。Sタンパク質は2つのサブユニットで構成されている。S2は新型コロナの膜貫通部分に固定されており、S1はその上に位置し、受容体結合ドメインを含んでいる。新型コロナウイルスのほとんどの株では、完全なスパイク前駆体タンパク質はウイルスの排出時に切断され、S1が遊離し、S2が膜貫通部に付着したままになっている。
では、なぜS1よりもS2が多く検出されたのか? エクソソームに付着した状態で、切断されていないスパイク全体のタンパク質が循環していることを発見した研究者たちが、その理由らしきものを見つけ出している。もしかしたら、Sタンパク質全体を備えたこの小さな細胞外膜小胞が、ロングコビド患者には存在するのかもしれない。
スワンクらの観察から、もう1つ不可解な疑問が浮かんだ。Sタンパク質は血中での半減期が短いにもかかわらず、なぜまだ循環しているのだろうか? スパイタンパクは作られているようだが、その方法は不明だ。1つの仮説は、活性ウイルスの持続的な貯蔵庫の存在を主張するものだ。このリザーバーは低レベルで新型コロナウイルスを複製している可能性がある。
以前の研究で、新型コロナ関連の多系統炎症性症候群(MIS-C)を発症した子どもの消化管にリザーバーがあることがわかったが、死後の組織分析で他のいくつかの組織でも新型コロナウイルスのRNAとタンパクが確認されたことから、リザーバーは体内の他の場所にも存在する可能性があることが示唆された。
もう1つの可能性は、Sタンパク質を生産できるサブゲノムRNAが、ウイルスが完全に複製されていない状態でも存続しているというものだ。この点については、コロナウイルスの中には、感染した二次培養物中にサブゲノムRNA断片が残存する原因となる欠陥干渉ウイルスを生産するもコロナウイルスがあることは注目に値する。