住友林業は2021年12月期に過去最高の純利益872億円をたたき出した。牽引したのは、経常利益の75%を占める海外住宅不動産事業。アメリカはミレニアルやZ世代が住宅購買層になり、需要が旺盛に。コロナで中古住宅の取引が減ったが、逆に新築市場が活性化した。その風を受けての好業績であり、同社を率いる光吉敏郎が頬を緩めていたとしても何らおかしくはない。
しかし、その表情は固いままだ。北米の需要増がウッドショックの引き金を引いたからだ。住宅の需要増、それに伴う木材需要増や価格高騰は世界的な現象だったが、北米や豪州は木材をほぼ自給自足しており、供給が止まることはなかった。一方、木材の6割を輸入に頼る日本では、木材不足が起きて木材価格が高騰。国内住宅建築事業の利益を約60億円押し下げた。
「日本の森林資源は蓄積量が増えています。しかし、林業従事者の人手不足やインフラの未整備でウッドショックをカバーするほどの供給ができなかった。日本の木材の安全保障は窮地に立たされています」
カーボンニュートラルの文脈でもマイナスだ。木は大気中のCO2を吸収し炭素として留め置き、伐採後も炭素は固定される。その木材を建物に使用し、また木を植え、育ててCO2を吸収すれば、脱炭素に大きく貢献でき森林資源を蓄積するものの、日本ではこのウッドサイクルがうまく回っていない。
ただ、光吉は「ウッドショックは問題を整理するいいタイミングになった」と前向きだ。
「コロナとほぼ同時期に、住友林業の長期ビジョン『Mission TREEING 2030』のとりまとめを始めていました。森林経営、木材の製造・流通、木造建築、木質バイオマス発電……。私たちの仕事は脱炭素や木材安全保障の課題解決につながっていますが、社員一人ひとりが必ずしも自分が果たすべき役割を意識できているわけではなかった。長期ビジョンとして整理したことで、社員のエンゲージメントは高まったのではないでしょうか」
実は光吉自身、ウッドサイクルを回して社会に貢献するという高い志を抱いて入社したわけではなかった。大学時代は登山に熱中して、日本百名山のうち70座を制覇。単純に山にかかわる仕事がしたくて、新聞の株式欄の冒頭にある農林水産業に分類されていた住友林業が目に留まり門をたたいた。