ビジネス

2022.06.25

宮大工の一言が変えた、ビジネスの1000年思考

住友林業代表取締役社長 光吉敏郎


入社後、木材を輸入する部門の配属になり、シアトルへ。アラスカの天然林から樹齢1,000年の木材を輸出することもあったが、「1,000年かけて育った木を伐採していいのか」と違和感があり、仕事に自信を持てないでいた。

見方が変わったのは、木材を買い付けるために渡米した宮大工の小川三夫に出会ってからだ。

「小川さんは法隆寺の宮大工、西岡常一さんの一番弟子。私が違和感を口にすると、西岡棟梁の言葉として『1,000年経った木は、伐採しても大切に使えばまた1,000年生きる』と教えてくれました。この言葉で、自分がやっているのは木を生かす仕事なのだとふに落ちました」

仕事に対するエンゲージメントを高めた光吉は、以後、長期的な視点で事業を考えるようになる。

住友林業はシアトルで年間100戸を建てていた。しかしリーマンショックで住宅市場が壊滅。大損害を被り、社内では撤退が議論された。海外事業担当の執行役員だった光吉は「逃げないで続ければ収益体制を築ける」と主張。継続が決定すると、テキサス州ダラスに進出した。10年近くたったいま、そのときまいた種が花開き、現在はアメリカでの販売戸数が年間1万1,100戸超の中核事業の一つに育った。

未来を見据え、光吉はこれからどのような種を撒こうとしているのか。

「国内では持続的な林業を確立する必要があります。日本は製材工場の規模が小さく非効率。国産材の競争力を高めるため、大型の木材コンビナートを建設予定です」

一方、海外では脱炭素の観点から森林の保全が欠かせない。その点で注目したいのが森林ファンドだ。

「カーボンニュートラルに取り組む企業から出資をいただいて、CO2排出をオフセットするクレジットを配分する森林ファンドの第一号を2024年までに設立します。対象資産になる森林を増やしていきたい」

これらの取り組みは数年で実がなるだろう。しかし、すぐに枯れてしまっては意味がない。長く続くように、いかに太い幹に育てることができるかが問われている。


みつよし・としろう◎1985年早稲田大学教育学部卒業後、住友林業入社。2011年常務執行役員海外事業本部長、15年には住友林業ホームテック社長、18年に取締役専務執行役員住宅・建築事業本部長など要職を歴任。2020年から現職。佐賀県出身。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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