このように、アメリカの暗号資産業界では、様々な創意工夫による技術的・ビジネス的発明が次々に登場しています。一方日本は、規制強化によるビジネスのハードル上昇、業界の経済成長の鈍化、さらにそれらが優秀な人材が集まりにくい状態を招いた結果、イノベーションにつながっていないのです。
武藤:なるほど。それが「周回遅れ」の実態なのですね。
「ディエム」からも学び、日本版デジタル通貨プロジェクトが進行中
時田:日本が遅れていると言っても、それはアメリカとの比較です。暗号資産を全面禁止している中国と比べると、事情は変わります。日本は規制されてはいますが、ルールの中での自由までは制限されていません。
とはいえ、アメリカ発の技術が世界を席巻しています。ステーブルコインに関する技術も日本は輸入を余儀なくされており、構造的にはソフトウェア産業と似た状態です。
武藤:たしかにアメリカでは、自由な発想によるトライアル&エラーを繰り返して学びを蓄積しています。しかし、メタ(旧Facebook)が構想したリブラ(現名称 ディエム)は注目を集めたものの、プロジェクトは頓挫してしまいました。
アクセンチュア 武藤惣一郎
時田:リブラは、法定通貨に触れた点で大きな意義を持っていました。法定通貨は国家経済の幅広い政策に影響します。メタが当初検討していたリブラは様々な通貨をバスケットにして、30億人規模が利用できる巨大経済圏の確立、言うなれば世界統一通貨を作ろうという壮大な構想を持っていました。
しかし、法定通貨の拘束力やパワーを奪うと、金融や経済のバランスが大きく崩れてしまいます。これを金融当局や中央銀行が警戒しました。つまり、暗号資産の普及とは全くレベルの異なるインパクトがあったわけです。私たちも、リブラの教訓から多くのことを学んでいます。
武藤:デジタル通貨フォーラムによる『ホワイトペーパー』などによると、DCJPY(仮称)(以下DCJPY)は、日本円と完全に連動する「円建て」のデジタル通貨として設計されていて、当面は民間銀行が発行主体となり銀行預金が裏付け資産と想定されています。円が裏付けとなって信頼の源泉になっているという点は様々な通貨をバスケットにして裏付け資産にしようと試みたリブラとは大きく異なる点ですね。
時田:その通りです。DCJPYは、「法定通貨である円建てのデジタル通貨」です。中央銀行が提供するCBCDと違い、民間銀行発行で銀行預金を裏付けに発行するという、画期的な特徴を持っています。
武藤: DCJPYを「法定通貨である円建てのデジタル通貨」と位置付けることで現行法との整合性も取りやすくなるのではないでしょうか。また、ユーザー目線でも身近な銀行預金が裏付けであれば安心感がありますね。
時田:まさにそうですね。DCJPYは、現行法下での実現に向けて取り組んでいます。実現したい仕組みが可能でさえあれば、法改正は必須ではありません。さらに、日本のような先進国では金融インフラが安定しているので、銀行預金ベースの形態という仕組みは多くのユーザーに受け入れられやすいと言えます。つまり、安心してご利用いただけるプラットフォームなのです。
この取り組みは「世界初」の挑戦です。成功すれば、日本はデジタル通貨の分野で一気に世界トップに躍り出ます。これが最初に申し上げた「チャンス」の意味です。