ビジネス

2022.06.24 17:00

新しい市場創造の鍵! 社会を動かす「ルールメイキング」の本質とは


スタンダード×レギュレーション




ルールメイキングを行うためには企業も「ルール」の知見を深めなければならない。条約や協定、指令、規則、法律、告示、通達、標準規格、ガイドラインなど、その種類は多岐にわたるが、実は大きくスタンダード(標準)とレギュレーション(規制)のふたつに分けることができる。

スタンダードは、主に業界団体、企業など民間が主導して策定するルール。一方のレギュレーションは、政府や国際機関が主導するもので、民間はロビイングや政策提言などを通じて間接的にルール策定に関与することができる。

ポイントは、このふたつの要素のかけ合わせだ。スタンダードだけではビジネスインパクトは限定的。レギュレーションとセットにすることで、より強固な力を発揮させることができる。「ISO(スタンダード)認証取得企業でなければ、この調達に入札許可しない(レギュレーション)」のような構造だ。

もうひとつ、忘れてはならないのは、社会課題解決の視点だ。近代までのルールは、弾薬やネジなどの寸法を統一して互換性を高めることが主目的だった。しかし、現代では、脱炭素に象徴されるように、社会課題の解決を目的としたルールづくりが主流。多くの企業や人々に影響を及ぼすだけに、特定の関係者だけが裨益する仕組みでは受け入れられず、社会にとってよいものであるという正当性がなければ、ルールとして成立しえない。

社会からのコンセンサスを得ることは、自社単独では難しい。同じ志をもつ仲間を見つけて、政治や行政、ソーシャルセクターなど、多様なステークホルダーを巻き込んだ合意形成を進めていくことが重要だ。

こうした視点でのルールメイキングを得意とする日本企業の代表がダイキン工業だ。例えば、中国でインバータエアコン市場を創出した事例。現地エアコン最大手の格力電器と連携したダイキンは、共同で中国政府に対してノンインバータ機の省エネ性能の足切り基準引き上げを提言し、2010年に基準改定を実現。これによって、基準を満たさないノンインバータ機は規制され、省エネ性能の高いインバータエアコンの市場が拡大し、ダイキンの中国での売上高は大幅に伸びた。

このように、プッシュ営業で顧客を誘うのではなく、マーケットからプルしてもらえる仕組みをつくれることはルールメイキングの醍醐味といえる。

中小企業でもルールはつくれる


ルールメイキングによる市場創出は決して政治や行政、国際機関とネットワークをもつ大企業や、新しいテクノロジーを有するスタートアップといった一部の企業だけものではない。技術イノベーションは必須条件ではないし、民間主導で完結させることだってできるのだ。

自社の事業の延長線上で、社会課題を結びつけた規格や標準を策定し、それを取引先に働きかけて調達ガイドラインに採用してもらうなど、中小企業でも工夫次第で実現できる。現場に近いルールづくりで経験を積んで、徐々に大きなルールメイキングに発展させていけばいい。

もし、社会課題の解決につながる自信があるのなら、いっそ他人の意見は聞かず、自社で独善的にルールメイキングを仕掛けてみてもよい。心配は無用だ。もしそれが、特定の会社しか儲からないようなルール提案ならば、必ず世間がすりつぶしてくれる。

ルールメイキングによる市場形成は、日本企業が未来を切り開くための重要な鍵となる。そこに気づいたアーリーアダプタ層のプレイヤーたちは、もう挑戦を始めている。

はにゅうだ・けいすけ◎オウルズコンサルティンググループ代表取締役CEO。経済産業省大臣官房臨時専門アドバイザー。多摩大学大学院ルール形成戦略研究所副所長/客員教授。政府・ビジネス・NPO/NGOの全セクターにて社会課題解決を推進。官民のルール形成に注力している。


Forbes JAPAN 2022年8月号は、新しい市場創造の手段として、規制緩和や国際標準化の取り組みなど、ルールメイキングの基本から成功パターンまでが一挙にわかる一冊。欧米で注目されている「修理する権利」の推進でGAFAMを突き動かした米iFixit・カイル・ウィーンズの独占インタビューをはじめ、ダイキン工業やヤマト運輸、メルカリ、マネーフォワード、Luupなど、いま最も勢いのある国内外のルールメーカー約40組を公開。合言葉は、「誰にでも、ルールはつくれる、変えられる」だ。

文=眞鍋 武

この記事は 「Forbes JAPAN No.096 2022年8月号(2022/6/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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