「うる星やつら」は究極のダイバーシティ社会を実現している

薦田 美奈子
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深井:「歴史思考」とは、歴史を使ってメタ認知することです。その観点で再読してみると、意外なことに気づきました。

あの理想的ダイバーシティ社会は、鎌倉時代初期と少し似ている。

鎌倉時代初期は、京都の貴族と荒くれ者の武士が混在しています。武士は貴族を滅ぼして新しいひとつの秩序をつくってしまおうとはしていません。それぞれ特性をもって好きなように動いています。鎌倉時代は、この人たちが一つの国のなかで混ざっていく時代なんです。『うる星やつら』で、エロいやつと食いしん坊が混ざるのと一緒です。

そういう人たちが一つの社会に入ると、あらゆる事件が起きる。しかしどちらか一方を覆滅するのではなく、みんなの世界をつくっていきます。

その意味では、鎌倉時代初期は、現在の日本よりもダイバーシティがあったと言えます。当時はLGBTの人権も保障されていないけど、いまとは質の違うダイバーシティがありました。武士社会と貴族社会という、ダブルスタンダードが共存していました。たったひとつのスタンダードを重んじようとする僕たちの社会とは異なっています。

『うる星やつら』はダブルスタンダードどころか、100個くらいのスタンダードがある感覚です。僕は今後、そういう社会が実現すればいいと思っています。

歴史を振り返ると、過去にはそういう社会があまりないことが、メタ認知でわかります。今後の社会はトリプルスタンダード、クアッドスタンダードくらいになっていくと思います。その理想像が『うる星やつら』の世界観なんです。

誰も人格を否定しないけれど、誰かに合わせてもいない。それぞれが好きなように生きて、調和して、新しいことが起きていく。まさに多様性が実現している社会で、本物のダイバーシティです。

いま、僕たちが生きる社会のなかでその価値観に沿って考えると、『うる星やつら』のダイバーシティを実現するのは、とても困難に感じるかもしれません。しかし、歴史を俯瞰してみれば、多様な人間社会のあり方がわかってきます。

そのなかに、新しい社会をつくり出すためのヒントが隠されているはずです。


『うる星やつら』高橋留美子 少年サンデーコミックス 全34巻
地球“最凶”の高校生・諸星あたると、宇宙から舞い降りた“鬼っ娘”美少女ラムが織りなす奇想天外なラブコメディ。1978〜87年、週刊少年サンデーに連載。TVアニメ、映画化もされ、累計発行部数3500万部を突破。2022年に完全新作のTVアニメが放送予定。
ふかい・りゅうのすけ◎1985年、島根県生まれ。東芝勤務やベンチャー企業の取締役等を経て、2016年にCOTEN設立。「メタ認知を高めるきっかけを提供する」をミッションに掲げ、3500年分の世界史情報を体系的に整理。著書に『世界史を俯瞰して、思い込みから自分を解放する 歴史思考』(ダイヤモンド社刊)。

くりまた・りきや◎
TSUTAYA IPプロデュースユニット、コミック・アニメ・文庫プロデューサー。「TSUTAYA文庫」企画など販売企画からの売り伸ばしを得意とし、業界で“仕掛け番長”の異名をもつカリスマ書店員。毎週2回の漫画レビュー連載や漫画原案なども手がける。

栗俣力也=インタビュー 荒井香織=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.094 2022年月6号(2022/4/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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