実はこれも米国が先行しており、例えばストレスが多く離職率が高いといわれていたIT業界では、Googleがマインドフルネスのメソッドなどを取り入れたSIYという独自プログラムを開発。それを従業員のみならず、外部へも提供しています。
なぜ今、各企業の経営陣が、これらサービスの導入を積極的なのか? その背景には、「従業員のウェルビーイング」の先に「生産性の向上」、さらに「企業の競争力UP」を見据えるなど、投資とリターンの構図がはっきりしているが故のモチベーションがあります。
また米国でこの領域が急成長した理由の一つとして、日本とは異なる健康保険制度があげられます。
日本では国民全員が公的医療保険に加入する国民皆保険制度を導入していますが、米国の公的医療保険は、65歳以上の高齢者および障害者を対象とするメディケアと、低所得者を対象とするメディケイドのみ。つまり、多くの現役世代は自ら保険を選ぶ必要があり、実際、ほとんどの国民は、個人で民間保険に加入するか、勤務先や所属団体が提供する団体保険に加入します。
世界でも高額の部類に入ると言われている米国の医療保険料は、毎年約5%前後上昇し続けています。また、企業が負担する保険料は、前年度の保険使用金額も保険料の上昇率に反映されるため、日本のそれと比べるとますます高額で、多くの企業の経営を圧迫する要素となっています。
日本では日本ならではのサービスを
個人の負担分に関しても日本のように一律ではありません。米国で心身の健康を害して病気になると、企業、個人共に高額の負担をするという社会システムということもあり、ウェルビーイングビジネスは、B2B市場でも、B2C市場でも注目を集めているのです。
日本においても同様のウェルビーイングサービスが企業の福利厚生としてラインナップされていますが、「保険料を抑えたい」という強いモチベーションのある米企業に比べると、サービスの導入も、従業員への提案も本気度が異なります。また、個人が自らメンタルカウンセリングを受けるという文化がある米国は、有料サービスへの受容性が高いという違いもあります。
一方、個人での有料メンタルケアが未だ一般的ではない日本においては、個人向けの市場の立ち上がりにはまだまだ時間がかかる可能性が高い。先述したCalmも、既に日本でのビジネスをスタートしていますが、大規模な事業展開まだこれからというステージです。
つまり、日本では日本の社会システムに合わせた日本ならではのウェルビーイング領域でのビジネスモデル開発をする必要があるのです。
世界で500兆円を超える規模となったウェルビーイングビジネスが、日本でも市場を拡大するには何がポイントなのか。これについては次回以降、さまざまなアングルから考察していきます。